薬を飲んでいる人は、飲酒を控えた方が良い?~相互作用と副作用のリスク
記事の内容
回答:控えるに越したことはないが、節度ある飲酒であれば大丈夫な薬もある
薬によっては、お酒を飲むと薬の効果が弱まって病状が悪化したり、逆に薬の作用が強まって副作用を起こしたりする恐れがあります。そのため、基本的には飲まないに越したことはありません。
しかし薬によっては、適度な飲酒であればそれほど大きな問題にならないものもあります。「薬を飲んでいる人は1滴もお酒を飲んではいけない」というのはあまりに窮屈なので、お酒を飲みたい場合は一度主治医・薬剤師に「自分の薬とお酒の相性」を確認することをお勧めします。
回答の根拠①:お酒が薬の作用に影響を与えるもの
お酒(アルコール)は、薬の吸収や代謝・作用に影響することがあります。特に、以下のような薬の効果や安全性はお酒によって大きく影響されるため、飲酒は控える必要があります。
作用が強まってしまう薬の例
例えば、「睡眠薬」や「抗てんかん薬」といった薬は脳に作用することから、お酒の作用と重なる部分があります。そのため、薬の作用がお酒によって更に強り、副作用が出てしまう恐れがあります。
実際、お酒を飲んだ後に睡眠薬の『ハルシオン(一般名:トリアゾラム)』を服用すると、薬の鎮静作用が強く現れる1)ことが報告されています。
1) Clin Pharmacol Ther.37(5):558-62,(1985) PMID:2859136
また、アレルギーを抑える薬の副作用である「眠気」も、普段より強く現れることがあります。こうした薬は市販の風邪薬にも含まれているため注意が必要です。
作用が弱まってしまう薬の例
逆に、お酒によって薬の効果が弱まってしまうものもあります。具体的には抗凝固薬の『ワーファリン(一般名:ワルファリン)』や抗不整脈の『インデラル(一般名:プロプラノロール)』、抗結核薬の『リファジン(一般名:リファンピシン)』などがあります。
例えば『ワーファリン』を服用中の人が少量のビールを服用しただけでもINR(血液の固まりやすさを示す指標)が上昇したという報告もある2)ため、これらの薬を服用中は飲酒は控えた方が無難です。
2) Pharmacotherapy.25(2):303-7,(2005) PMID:15767245
ただし、これらの薬を服用中の人が急に飲酒を止めると、今度は薬の作用が強まってしまう可能性もあります。急にお酒の量を増やしたり減らしたりすることの方が危険なこともあるため、気になった人は「普段通り」に過ごしたまま主治医に相談することをお勧めします。
回答の根拠②:肝臓への負担が強まるもの
痛み止めや熱冷ましとしてよく使われる『カロナール(一般名:アセトアミノフェン)』は、お酒との相性が良くない薬として有名です。これは、飲酒によって誘導された酵素「CYP2E1」が、薬の成分を肝毒性のあるかたちに変化させてしまう3)からです。
実際、毎日3合程度のお酒を飲んでいた人が、4,800mgの「アセトアミノフェン」を服用した結果、急性肝不全を起こして死亡した事例も報告されています4)。
3) カロナール錠 インタビューフォーム
4) 肝臓.30(6):690-4,(1989)
ただし、これは普段からかなりの量のお酒を飲んでいる人が、「アセトアミノフェン」を過量摂取した場合に起きた症例です。節度のある適度な飲酒(1日1合程度)5)で、薬も用法・用量を守って使っていれば、基本的に心配する心配はありません。
5) 厚生労働省「健康日本21:アルコール」
回答の根拠③:悪酔いする
ピロリ除菌の二次除菌で使う『フラジール(一般名:メトロニダゾール)』は嫌酒薬と同じ作用があり、アルコールの分解を邪魔します。そのため、普段はお酒に強い人でも気持ち良く酔えず、いきなり頭痛や吐き気といった二日酔いの症状を起こすことになります6)。
6) フラジール錠 添付文書
こうした薬を服用している時に、敢えてお酒を飲むメリットはないと思われます。
薬剤師としてのアドバイス:「2時間」の間隔をあける意味は
「お酒を飲んでから2時間の間隔をあければ薬を飲んでも良い」といったアドバイスがインターネット上では散見されますが、これは「アルコール」の血中濃度が2~3時間ほどで下がってくるからです(最高血中濃度到達時間:Tmax=0.5~3.0時間)。薬とお酒の血中濃度が同時に上昇してしまうことを避けるのは、確かに相互作用のリスクを下げるための1つの方法にはなります。
しかし、定期的に薬を服用している場合、薬の血中濃度はほぼ一定になっている(※定常状態)こともあり、「2時間」の間隔があまり意味をなさない可能性があります。また、アルコールの分解速度には個人差もあること、上記のように薬によって相互作用のリスクも大きく異なることから、一概に「2時間の間隔をあければOK」と言い切ることはできません。どちらかと言えば「お酒の量を少なめにする」ことの方が現実的な対策かもしれません。
お酒は、料理をより美味しく食べる、会話を楽しむためのツールでもあります。忘年会や歓送迎会、お盆休みや正月など、飲酒の機会が増える時に「1滴もお酒を飲めない」という窮屈なことにならないよう、逆に安易な飲酒で大きな健康被害のリスクを負ってしまわないよう、服薬中の飲酒については一度主治医や薬剤師に相談することをお勧めします。
ポイントのまとめ
1. お酒を飲むと、作用が強まる・弱まる、肝臓に負担がかかる、悪酔いする薬がある
2. ただし、節度ある飲酒であれば、影響の少ない薬もある
3. お酒と薬の同時服用を避ける、お酒の量を控えるといった対応も考える
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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