『フェロミア』と『フェロ・グラデュメット』、同じ鉄剤の違いは?~胃酸の影響と錠剤の大きさ、お茶の相互作用
記事の内容
回答:吸収が安定している『フェロミア』、錠剤が小さい『フェロ・グラデュメット』
『フェロミア(一般名:クエン酸第一鉄)』と『フェロ・グラデュメット(一般名:硫酸第一鉄)』は、どちらも鉄欠乏性貧血の治療に使う鉄剤です。
『フェロミア』は、胃酸が少なくても安定して吸収される薬です。
『フェロ・グラデュメット』は、錠剤が小さく飲みやすい薬です。
「鉄剤はお茶で飲んではいけない」と昔から言われていますが、最近の薬は影響も少なく、特に『フェロミア』は緑茶で飲んでも吸収や治療効果に影響しないことが確認されています。
回答の根拠①:『フェロミア』の吸収~胃内pHと重合体
『フェロ・グラデュメット』は、胃酸が少ない状態で服用すると、吸収率が2/3程度にまで低下する可能性が示唆されています1)。これは、pHが5.0より大きくなると「鉄」は吸収されにくい重合体を形成するからです。そのため、添付文書上でも制酸薬と「併用注意」とされています2)。
一方、『フェロミア』はpHが1.0~8.0の範囲では重合体を作らないとされています3)。
1) 医療薬学.28(6):559-63,(2002)
2) フェロ・グラデュメット錠 添付文書
3) フェロミア錠 インタビューフォーム
このことから、『フェロミア』は胃酸を抑える薬を併用している人、胃酸が少ない高齢者、胃を切除した人でも安定した効果を期待できる薬と言えます。
回答の根拠②:『フェロ・グラデュメット』の飲みやすさ~錠剤の大きさ
『フェロミア』と『フェロ・グラデュメット』では、貧血の治療効果に差はありません3)。1日1~2回で服用するという用法も同じため、胃酸やお茶などの影響を考える必要がなければどちらを選んでも問題ありません。
しかし、『フェロ・グラデュメット』の錠剤は、『フェロミア』だけでなく『フェロミア』の後発(ジェネリック)医薬品と比べてもサイズが小さめです2,3)。
※錠剤のサイズ
フェロミア・・・・・・・・・直径10.3mm・厚さ5.0mm(体積1,665mm²)、重さ550mg
→「サワイ」・・・・・・・・直径10.1mm・厚さ5.5mm(体積1,761mm²)、重さ546mg
→「武田」・・・・・・・・・直径 9.6mm・厚さ5.6mm(体積1,620mm²)、重さ550mg
→「JG」・・・・・・・・・ 直径10.0mm・厚さ6.0mm(体積1,884mm²)、重さ570mg
フェロ・グラデュメット・・・直径 9.9mm・厚さ3.8mm(体積1,169mm²)、重さ410mg
大きな錠剤は、時に喉にひっかかることや、飲みにくさの原因にもなります。効き目に違いがなければ、飲みやすい錠剤を選ぶことも選択肢の一つです。
『フェロミア』の「顆粒」という選択肢も
『フェロミア』には顆粒(粉薬)があるため、錠剤自体が飲みづらい場合には選択肢になります。ただし、1回量が1.2~2.4gと錠剤よりもかさ高くなることに注意が必要です。
回答の根拠③:お茶と鉄剤の相互作用
「鉄剤はお茶で飲んではいけない」と昔から言われています。これは、「鉄」がお茶に含まれる「タンニン」と複合体を形成し、吸収されにくくなるからです。しかし近年、貧血状態の身体は鉄を吸収する力が高まっていることもあり、鉄剤をお茶で飲んでも貧血治療には大きく影響しないことが明らかになってきました。このことから、最近ではお茶を厳しく制限する必要はないとされています4)。
4) 日本鉄バイオサイエンス学会「錠剤の適正使用による貧血治療指針(第3版)」,(2015)
実際、『フェロミア』は「タンニン」が豊富な緑茶で服用した場合でも、鉄の吸収や貧血治療の効果に影響しないことが確認されています3)。
ただし、『フェロ・グラデュメット』では鉄の吸収が半分程度にまで大きく低下するという報告もある5)ため、濃い緑茶を日常的に飲む習慣がある人は、より影響の少ない『フェロミア』を選ぶのが無難です。。
5) 内科.21(1):149-152,(1968) CiNNi:40018171538
薬剤師としてのアドバイス:貧血=立ちくらみではない
貧血の代表的な症状は、階段を登るなどのちょっとした運動で息切れや疲れを感じることです。いわゆる立ちくらみは「起立性低血圧」で、貧血とはまた別の症状です。また、鉄欠乏性貧血の治療では、体内に貯蔵されている鉄の量も回復させなければならないため、貧血の症状が治まっても3~6ヶ月程度は薬を飲み続ける必要があります。症状が治まったら薬を止めて良い、というわけではありません。
立ちくらみを起こさないから薬は止めて良い、と自己判断で薬を止めてしまうと、貧血は治療できません。必ず医師からOKをもらえるまでは薬を続けるようにしてください。
ポイントのまとめ
1. 『フェロミア』は、薬や加齢・胃の切除、併用薬で胃酸が減っている状態でも安定して吸収されやすい
2. 『フェロ・グラデュメット』は、『フェロミア』やその後発(ジェネリック)医薬品と比べても錠剤が小さい
3. お茶を厳しく制限する必要はないが、『フェロ・グラデュメット』では吸収が低下するので控えた方が無難
添付文書、インタビューフォーム記載内容の比較
◆鉄の状態
フェロミア:クエン酸第一鉄
フェロ・グラデュメット:硫酸鉄
◆適応症
フェロミア:鉄欠乏性貧血
フェロ・グラデュメット:鉄欠乏性貧血
◆用法
フェロミア:1日1~2回
フェロ・グラデュメット:1日1~2回
◆「制酸薬」との併用注意
フェロミア:記載なし
フェロ・グラデュメット:記載あり
◆剤型の種類
フェロミア:錠(50mg)、顆粒
フェロ・グラデュメット:錠(105mg)
◆錠剤の大きさ
フェロミア:直径10.3mm・厚さ5.0mm(体積1,665mm²)、重さ550mg
フェロ・グラデュメット:直径9.9mm・厚さ3.8mm(体積1,169mm²)、重さ410mg
◆製造販売元
フェロミア:エーザイ
フェロ・グラデュメット:マイラン
+αの情報①:貧血には、鉄を補給しても治らないものもある
鉄は赤血球の材料になるため、材料不足で起こる貧血(鉄欠乏性貧血)には鉄剤が効果を発揮します。
しかし、中には作られた赤血球を免疫が破壊してしまうもの(溶血性貧血)や、赤血球を作る骨髄に異常が起きているもの(再生不良性貧血)もあります。こういった貧血は鉄の補給だけでは十分な効果がありません。
また、小児の貧血にはピロリ菌が関係している可能性もあります。
長く続く貧血は鉄の不足以外の原因を疑う必要があるため、一度病院で検査を受けることをお勧めします。
+αの情報②:鉄剤は隔日投与の方が良いかもしれない
鉄欠乏性貧血では鉄剤の補充が行われますが、このとき鉄剤は毎日使うよりも1日おき(隔日投与)で使った方が吸収が良いことが報告されています6)。鉄の過剰摂取や胃での副作用などを防ぐためには、こうした使い方も覚えておくと便利です。
6) Lancet Haematol.4(11):e524-e533,(2017) PMID:29032957
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
いつも先生のサイトで勉強させていただいています。
文中にフェロ・グラデュメットは胃酸が少ない状態で服用すると、吸収率が2/3程度にまで低下するとの記載ふがありますが
添付文書の服用方法は「空腹時」となっています。
どのように解釈すればよいですか?
ご教授いただければ幸いです。
コメントありがとうございます。
『フェロ・グラデュメット』は、制酸剤などと併用すると吸収が低下しますが、これはpH上昇によって難溶性の複合体を作るからと考えられています。
通常、「空腹時」は胃内pHは低く保たれています。そのため、このタイミングで服用するのが最も吸収も良く効果的と考えられています。
一方、食事をすると確かに胃酸は分泌されますが、他に水や食べ物も入ってきますので、一時的にpHは上昇する(日消外会誌.19(5):887-92,(1986))とされています。
このことから、摂食時に起こる一過性のpH上昇の影響を考慮し「空腹時」に用法が定められているのだと思います。
(こういったpHによる影響を受けにくい『フェロミア』は、元から食後で問題ないようです)
【加筆修正】
「胃内が少なくなった状態」での安定性を、2剤の主な違いとして取り扱う内容に変更しました。
緑茶での飲用は、ガイドラインで「取り立てて禁ずる必要はない」とされていることを追記しました。