『ラシックス』と『フルイトラン』、同じ利尿薬の違いは?~ループ利尿薬とサイアザイド系利尿薬、利尿と降圧の効果
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回答:『ラシックス』は利尿作用が強力なループ利尿薬、『フルイトラン』は降圧薬として優秀なサイアザイド系利尿薬
『ラシックス(一般名:フロセミド)』と『フルイトラン(一般名:トリクロルメチアジド)』は、どちらも心不全や高血圧の治療に使う利尿薬です。
『ラシックス』は、利尿作用が強力なループ利尿薬です。
『フルイトラン』は、降圧効果に優れたサイアザイド系利尿薬です。

適応症もほとんど同じですが、”利尿”か”降圧”か、目的によって使い分けるのが一般的です。場合によっては併用することもあります。
回答の根拠①:「フロセミド」の強力な利尿作用~ループ利尿薬の作用点
腎臓の糸球体でろ過されたNaは、「近位尿細管」で60%、「ヘンレ上行脚」で30%、「遠位尿細管」で7%程度が再吸収され、最終的な尿が作られています。
「フロセミド」や「トリクロルメチアジド」といった利尿薬は、このろ過されたNaの再吸収を阻害することで、Naや水を尿として排出させる作用がありますが、「フロセミド」のようなループ利尿薬は「ヘンレ上行脚」、「トリクロルメチアジド」のようなサイアザイド系利尿薬は「遠位尿細管」での再吸収に作用します。

基本的に、より上流にある「ヘンレ上行脚」に作用するループ利尿薬の方が、利尿作用は強く現れやすい傾向にあります1)。特に「フロセミド」は1時間以内に利尿作用が現れる2)など、速効性にも優れた薬です。
心不全などでうっ血(血液の循環が滞ること)が起こると、各臓器に水が溜まって咳や呼吸困難、腹部の膨満感、むくみなどの不快な症状が現れるだけでなく、予後も悪くなる3)ことが知られています。そのため、こうしたうっ血を解消する際、水やNaを強力に排出する「フロセミド」などのループ利尿薬を使った治療が行われます4)。
1) Circulation.34(5):910-20,(1966) PMID:5332332
2) ラシックス錠 インタビューフォーム
3) Eur Heart J.34(11):835-43,(2013) PMID:23293303
4) J Clin Hypertens (Greenwich).13(9):639-43,(2011) PMID:21896142
重度の腎機能障害があっても使える「フロセミド」
「トリクロルメチアジド」などのサイアザイド系利尿薬は、重度の腎機能障害(eGFRが30mL/min/1.73m2未満)の人には”禁忌”に指定されています5)。これは、薬が輸入細動脈を収縮させるため腎血流量が減少し、腎機能をさらに悪化させる恐れがあるからです。
一方で「フロセミド」などのループ利尿薬は、腎血流量を増やす作用がある2)ため、慢性腎不全の人であっても利尿効果を得られます6)。このことから、重度の腎機能障害がある人に利尿薬を使う場合には、「フロセミド」などのループ利尿薬が選ばれます7)。
ただし、「フロセミド」などのループ利尿薬も”脱水”を引き起こして急性腎障害の原因になることがある8)ため、特に高齢者では注意して扱う必要があります。
5) フルイトラン錠 インタビューフォーム
6) Ann Intern Med.69(2):249-61,(1968) PMID:4385956
7) 日本高血圧学会 「高血圧治療ガイドライン (2019)」
8) 日本老年医学会 「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン(2015)」
回答の根拠②:「トリクロルメチアジド」の優れた降圧効果~心不全を伴う高血圧治療に積極的適応のあるサイアザイド系利尿薬
「トリクロルメチアジド」などのサイアザイド系利尿薬は、利尿作用そのものはそこまで強くないものの、24時間安定して血圧を下げる効果に優れています4)。
このことから、サイアザイド系利尿薬はARBやACE阻害薬・Ca拮抗薬・β遮断薬と並んで高血圧治療の中心的な薬「主要降圧薬」に選ばれており、特に心不全を伴う高血圧に積極的適応があります6)。

ARBとサイアザイド系利尿薬の配合剤がたくさんある
主要降圧薬は、1つの薬を増量するよりも、複数の薬を組み合わせた方が少ない副作用で効率よく降圧効果を得ることができます9)。そのため、高血圧治療では薬の数が増えがちですが、このとき服薬の手間を減らす”配合剤”がよく使われています10)。
「トリクロルメチアジド」などのサイアザイド系利尿薬は、ARBとの配合剤が多く販売されています。サイアザイド系利尿薬にはカリウムを排泄する作用があるため、ARBによる高K血症のリスクを下げられる組み合わせにもなっています11)。
※ARB+サイアザイド系利尿薬の配合剤
ARB | サイアザイド系利尿薬 | |
イルトラ | イルベサルタン | トリクロルメチアジド |
エカード [後]カデチア | カンデサルタン | ヒドロクロロチアジド |
コディオ [後]バルヒディオ | バルサルタン | ヒドロクロロチアジド |
プレミネント [後]ロサルヒド | ロサルタン | ヒドロクロロチアジド |
ミコンビ [後]テルチア | テルミサルタン | ヒドロクロロチアジド |
9) Am J Med.122(3):290-300,(2009) PMID:19272490
10) Hypertension.55(2):399-407,(2010) PMID:20026768
11) J Hum Hypertens.36(11):989-995,(2022) PMID:34556798
薬剤師としてのアドバイス:利尿薬は、午前中に飲むのが基本
「フロセミド」や「トリクロルメチアジド」といった利尿薬は、文字通り尿量を増やす作用があるため、寝る前に飲むと夜中にトイレに行きたくなってしまうことがあります。そのため、特別な理由がなければ、起きている時間帯、特に”午前中”に服用するのが一般的です。

特に、飲み始めは尿意を感じやすいため、電車通勤の人は”朝食後”ではなく”会社に着いてから飲む”など、個々の事情に合わせて適切なタイミングを考えることが大切です。
ポイントのまとめ
1. 『フロセミド(ラシックス)』などの「ループ利尿薬」は、利尿作用が強力なので心不全や浮腫に使う
2. 『トリクロルメチアジド(フルイトラン)』などの「サイアザイド系利尿薬」は、降圧作用が優秀なため、主要降圧薬に選ばれている
3. 利尿薬は、寝る前や通勤前など”トイレに行きづらい時間帯”を避けて服用するのが基本
薬のカタログスペックの比較
添付文書、インタビューフォーム、その他資料の記載内容の比較
フロセミド | トリクロルメチアジド | |
先発医薬品名 | ラシックス | フルイトラン |
薬効分類 | ループ利尿薬 | サイアザイド系利尿薬 |
適応症 | 高血圧症(本態性、腎性等)、悪性高血圧、心性浮腫(うっ血性心不全)、腎性浮腫、肝性浮腫、月経前緊張症、末梢血管障害による浮腫、尿路結石排出促進 | 高血圧症(本態性、腎性等)、悪性高血圧、心性浮腫(うっ血性心不全)、腎性浮腫、肝性浮腫、月経前緊張症 |
用法 | 1日1回 | 1日1~2回 |
通常の用量 | 1日40~80mg | 1日2~8mg |
高血圧治療の立ち位置 | 重度腎機能障害がある場合のみ | 主要降圧薬 |
ARBとの配合剤 | ない | ある |
腎機能障害がある場合の禁忌制限 | (禁忌制限なし) | 重度の腎機能障害がある場合は禁忌 |
剤型の規格 | 錠(10mg、20mg、40mg)、注 | 錠(1mg、2mg) |
先発医薬品の製造販売元 | サノフィ | シオノギファーマ |
同成分のOTC医薬品 | (販売なし) | (販売なし) |
+αの情報:ループ利尿薬+サイアザイド系利尿薬の併用
ループ利尿薬とサイアザイド系利尿薬は、併用するとより強力な利尿作用が得られます12)。
特に、「フロセミド」などのループ利尿薬を使い続けていると、「ヘンレ上行脚」で再吸収が減った分の代償として、「遠位尿細管」での再吸収が増えてくることがありますが、こうした効力低下が起きた際の”切り札”になります。ただし、脱水や腎障害、低Na血症、低K血症のリスクも高くなる13)ことにも注意が必要です。
12) JACC Heart Fail.12(10):1719-1730,(2024) PMID:38934966
13) J Am Coll Cardiol.56(19):1527-34,(2010) PMID:21029871
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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