『トリプタノール』で片頭痛の予防ができるのは何故?~片頭痛予防のエビデンスと保険適用外使用
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回答:”痛みを抑える神経”の活動を強化するから
『トリプタノール(一般名:アミトリプチリン)』は、本来はうつ病に用いる「三環系抗うつ薬」に分類される薬です。
しかし、”痛みを抑える神経”である「下行性疼痛抑制経路」を賦活化させる作用を持つことから、片頭痛のみならず、様々な痛みの鎮痛補助薬として使用されることがあります。
『トリプタノール』の添付文書上の適応症は「うつ病」と「夜尿症」のみですが、原則、「片頭痛」や「緊張型頭痛」に対して処方した場合でも、保険適用を認めるとする通達がされています。
なお、片頭痛の治療薬である「トリプタン製剤」と『トリプタノール』は、たまたま名前が非常によく似ていますが、無関係です。『トリプタノール』に片頭痛の発作を治療する効果はありません。
回答の根拠①:鎮痛補助薬としての効果
『トリプタノール』には本来の抗うつ作用に加え、”痛みを抑える神経”である「下行性疼痛抑制経路」の働きを強化する働きがあります1)。
また、末梢においてもNaチャネル、Caチャネルを遮断することによって、神経の痛みを抑える作用があるとされています1)。
1) 日本ペインクリニック 「鎮痛補助薬」
こうした作用によって緊張型頭痛や片頭痛に効果があることから、片頭痛の予防薬としてガイドラインでも最も高い”推奨グレードA”の評価がされています2)。
また、特に『トリプタノール』は緊張型頭痛を合併した片頭痛に対して、特に優れた効果を発揮することが報告されています3)。
2) 日本頭痛学会「慢性頭痛の診療ガイドライン」 (2013)
3) Headache.21(3):105-9,(1981) PMID:7021472
+αの情報:下行性疼痛抑制系とは
「下行性疼痛抑制系」とは、脳幹から脊髄に向かって下行する”抑制性ニューロン”のことです。
通常、何らかの傷害(ケガや炎症)が起こると、その情報はC線維やAδ繊維などの「一次ニューロン」によって脊髄に伝わります。
次に、その情報は脊髄から「二次ニューロン」によって「脳」に伝わり、脳が”痛み”として感知します。
このとき、「一次ニューロン」から「二次ニューロン」への情報伝達を弱める作用を持つのが、「下行性疼痛抑制系」です。
こうした働きは、神経痛に効果を発揮する『ノイロトロピン(一般名:ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液)』や『リリカ(一般名:プレガバリン)』と同じ作用です。
回答の根拠②:保険適用外として認められている使用方法
通常、薬を適応症以外の目的に使用する場合、全て保険適用外の使用となり、医療保険を使えなくなります。
しかし、『トリプタノール』等の「アミトリプチリン塩酸塩【内服薬】」を「片頭痛」、「緊張型頭痛」に対して処方した場合は例外的に認める、とする通達がされています4)。
4) 社会保険診療報酬支払基金 「審査情報提供」事例No.275 (2011)
薬剤師としてのアドバイス:片頭痛は予防することもできる
片頭痛には特効薬とも呼べる「トリプタン製剤」があります。しかし「トリプタン製剤」は、片頭痛の発作が起きてから飲む薬であって、予防的に服用しても効果がありません。
その上、月に何度も「トリプタン製剤」を服用していると、「薬物乱用性頭痛」と呼ばれる別の頭痛を引き起こす恐れもあります。
そのため、「トリプタン製剤」を頻繁に使用しなければならないような場合には、予防薬の使用を主治医と相談するようにしてください。
十分な効果が現れるまでに2~3ヶ月が必要ですが、予防薬は片頭痛そのものを起こさなくすることが可能であり、更に「トリプタン製剤」よりも遥かに安価で経済的です。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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