「細菌」と「ウイルス」の違いは?~風邪に抗生物質が効く、効かない
回答:むしろ共通点がないくらい、違う
「細菌」と「ウイルス」を比較したとき、共通する点は”ヒトに感染して、感染症の原因となる”という1点だけです。それ以外は全て異なります。「ヒト」・「細菌」・「ウイルス」の三者を比較した時、「ヒト」と「細菌」の方が近い関係にあります。そのくらい「細菌」と「ウイルス」は異なります。
ここでは特徴的な以下5点について解説します。
1.大きさ
2.食事と排泄
3.増殖の方法
4.ヒトに感染する目的
5.構造
ひとことに”感染症”と言っても、ウイルスに感染した時には「抗ウイルス薬」、細菌に感染した時には「抗生物質」を使う必要があります。
ウイルスを「抗生物質」で退治したり、細菌を「抗ウイルス薬」で退治したりすることは、一切できません。
※ウイルス感染症の例
風邪症候群、流行性のインフルエンザ、ヘルペス、エイズ、エボラ出血熱、SARS、MERSなど
※細菌感染症の例
コレラ、赤痢、破傷風、細菌性髄膜炎、扁桃腺炎、副鼻腔炎、細菌性胃腸炎など
詳しい回答①:風邪に抗生物質を使う?
「風邪は、抗生物質で治す」と誤解している人は少なくありません。 「風邪」は「ウイルス性の感染症」です。そのため、「風邪」を「抗生物質」で治すことはできません。
「抗生物質」が処方されたということは、正確には「風邪」ではなく、「扁桃腺炎」や「副鼻腔炎」といった「細菌性の感染症」と診断された、ということです。
一般的に、”熱が出て、咳やハナが出る”症状があれば、なんでも「風邪」と思い込んでしまいがちです。
そのため、実際には「細菌感染症」を「抗生物質」で治療しているにも関わらず、「風邪」を「抗生物質」で治療している、と誤解してしまうことが、よく起こります。
詳しい回答②:「細菌」と「ウイルス」は、こんなにも違う
1.大きさ:1000倍以上の差
代表的なものの大きさでも、1,000倍以上の差があります。
これは、ウイルス(10~100nm)をビー玉(1.7cm)くらいの大きさと仮定すると、細菌(1μm)は4階建てのビル(17m)ほどの大きさになります。
そのため、「細菌」は光学顕微鏡で見ることができますが、「ウイルス」は電子顕微鏡でなければ見ることはできません。
2.食事と排泄:食べたらウンコするか?
「細菌」は「ヒト」と同じように、栄養源を摂取し、老廃物を排泄して生活しています。平たく言うと、食べたらウンコをする、ということです。 「ウイルス」は、生活をしていません。何の活動もしないので、栄養源やエネルギーを必要としません。そのため、老廃物を排泄することもありません。”生物”というカテゴリに当てはまらないとする学説すらあります。
※「細菌」の排泄物(ウンコ)
「細菌」の排泄物(ウンコ)が、「ヒト」にとって有害なものであれば”病原菌”と見なされます。
大腸菌であるO-157は、ベロ毒素と呼ばれる出血性大腸炎の原因物質を作るため、「ヒト」にとっては有害な”病原菌”です。
一方、「ヒト」にとって有益なものであれば”善玉菌”のように共存して生きていくことになります。
乳酸菌は、乳酸を作って腸内環境を整えてくれるため、「ヒト」にとっては有益な”善玉菌”です。
このように「ヒト」と「細菌」は、共に生物として時に対立、時に共存しながら、地球上で生きている存在です。
3.増殖の方法:自力で子どもを作るか?
「細菌」は、「ヒト」と同じように子どもを作ります。作り方は大きく異なりますが、自力で分裂して数を増やします。 「ウイルス」は、自力で子どもを作ることができません。「ウイルス」が数を増やそうとするとき、必ず別の生物の細胞に寄生する必要があります。そして、寄生した生物のエネルギーや栄養素を横取りして、数を増やします。
4.感染する目的:「ヒト」に感染するのは何故か?
「細菌」は、つまるところ「ヒト」とは関係なく、己の生命を謳歌している生き物です。例えば大腸菌は、道端の苔の中、河川の水の中、庭の土の中、海底の泥の中・・・様々な生活環境がある中で、たまたま、「ヒト」の腸の環境が心地よかったので、腸に住んでいるだけです。
「ヒト」に感染する「細菌」も、たまたま「ヒト」の体内環境が適していたので移住してきただけです。
生卵に居る「サルモネラ菌」や、魚肉に居る「ウェルシュ菌」は、何も「ヒト」に感染して食中毒を起こさせるために存在しているわけではありません。彼らは彼らなりにその環境で生活しているところ、不幸にも「ヒト」と出遭ってしまい、害を及ぼすだけです。
ところが「ウイルス」は、「ヒト」など他の生物の細胞に寄生しなければ何の活動もできません。つまり、最初から他の生物に感染して、害をなす(エネルギーを横取りする)ことを目的に存在しています。”何に寄生するか”という選択肢しかありません。
5.構造の違い:ウイルスは遺伝情報しか持っていない
「細菌」は動物や植物と同じように、”細胞”としての構造を持っています。動き回るための組織(鞭毛)、餌を食べるための組織(リボソーム)、エネルギーを作るための構造、子どもを作るための構造などを備えています。「ウイルス」は遺伝情報であるDNA・RNAと、それ覆う殻だけで構成されています。呼吸もしなければ、餌を食べることもせず、エネルギーを作ることもなく、子どもを作るわけでもないため、必要最低限の遺伝情報しか持っていません。
※「細菌」には細胞壁の有無、「ウイルス」にはエンベロープの有無など、種類によって細かな違いがあります。
薬剤師としてのアドバイス:「細菌」と「ウイルス」を混同しない
以上のように、「細菌」と「ウイルス」は、共に”病原体”や”ばい菌”といった表現で一括りにされてしまうこともありますが、全く異なるものです。そのため、感染した際に使う薬も違えば、感染しないよう消毒する時に使う薬品も異なります(例:ノロウイルスは、アルコールで消毒できないため、塩素を使う)。
とんちんかんな対応や、無意味な対策をすることがないよう、「細菌」と「ウイルス」はしっかりと区別して考えるようにしましょう。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
こやつちょいと知りたかったのでありがとうございました。