漢方薬は食前に飲まないとダメ?~胃のpHと「アルカロイド」・「有機酸」の吸収
記事の内容
回答:食前の方が、少ない副作用で、よく効く
一般的に、漢方薬はお腹が空っぽの状態、つまり「食前」や「食間」で服用します。その方が、より少ない副作用で、より高い効果が得られるからです。
しかし、食後で服用したからといって効果がゼロになったり、副作用のリスクが猛烈に高くなるわけではありません。そのため、飲み忘れた場合は食後でも良いので、指示された回数をきちんと服用することをお勧めします。
回答の根拠:「アルカロイド」と「有機酸」の吸収効率
漢方薬の効果は、「アルカロイド」や「有機酸」が主体となって発揮されます。
この「アルカロイド」や「有機酸」は塩基性・酸性という性質を持っているため、胃の中のpHによって吸収効率が大きく変わります。
作用の鋭い、塩基性成分「アルカロイド」
「アルカロイド」は塩基性(アルカリ性)の物質です。そのため、胃の中が酸性だと吸収が悪くなります1)。
作用の鋭い「アルカロイド」が一気に吸収されて血中濃度が急激に上昇すると、副作用を起こす恐れがあります。そのため、なるべく胃の中が酸性のタイミング(空腹時)に服用し、吸収を穏やかにさせる必要があります。
1) 漢方調剤研究.5(1):12-13,(1997)
※作用の鋭い「アルカロイド」の例
エフェドリン・・・「麻黄」に含まれる、交感神経興奮作用を持つ成分
ベルベリン・・・「黄連」や「黄柏」に含まれる、抗菌作用を持つ成分
キニーネ・・・「キナ皮」に含まれる、抗マラリア・解熱作用を持つ成分
レセルピン・・・「インド蛇木(ラウオルフィア)」に含まれる、鎮静・降圧作用を持つ成分
エメチン・・・「吐根」に含まれる、催吐作用を持つ成分
作用が穏やかな、酸性成分「有機酸」
「有機酸」は酸性の物質です。そのため「アルカロイド」と逆に胃の中が酸性だと吸収が良くなります。
作用が穏やかな「有機酸」は、胃の中が酸性であるタイミング(空腹時)で服用した方が吸収が促され、より効果が高まります。
※作用の穏やかな「有機酸」の例
クエン酸、リンゴ酸、コハク酸など
このことから、漢方薬を「食前」や「食間」といった空腹時に服用することは、「アルカロイド」による副作用のリスクを減らし、「有機酸」による効果を高めるという、一石二鳥の方法と言えます。
薬剤師としてのアドバイス:「食前」や「食間」は、胃の中が空っぽの状態、という意味
漢方薬の「食間」という用法を「食事中」だと勘違いしている人が少なくありません。
漢方薬は、胃の中が空っぽの状態で服用することで、副作用はより少なく、効果はより高く得ることができる薬です。人間、胃の中が空っぽなのは、これから食事をする「食前」か、あるいは食事と食事の間の「食間」です。
このことから、「食前」や「食間」は「胃の中が空っぽの状態」と理解してもらうと、わかりやすいかと思います。
+αの情報:胃酸の減っている高齢者では、より大きな意義がある
高齢者は、胃酸の分泌が少なくなっている傾向にあります。そのため、胃のpHも普段から中性に近い状態になっています。
その結果、若い人よりも作用の鋭い「アルカロイド」の吸収効率が高まり、より副作用のリスクが高くなってしまっています。
高齢者の漢方薬による副作用を避けるためにも、「食前」や「食間」といった用法を守ってもらうことは非常に大切です。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
【加筆修正】
「有機酸=薬効」、「アルカロイド=副作用」といった誤解をされかねない表現になっていたため、どちらも薬効・副作用のあるものとわかるよう加筆・修正しました。