抗生物質の処方量を、2020年までに3割減へ~患者満足度と合併症予防のNNT
政府は、2020年までに抗生物質の処方量を3割減らす目標を打ち立てています。
これは、抗生物質の使い過ぎや間違った使い方が原因で、多くの「耐性菌」が生まれてしまっている現状を何とかしようという対策の一つです。
「耐性菌」に対する具体的な国の対策・計画としては、初の取り組みです。
記事の内容
昔は、表面上の「患者満足」のために処方されていた抗生物質
「風邪で病院へ行ったのに、抗生物質を出してくれない」という病院に対する不満を口にする人は少なくありません。
しかし、そもそも「風邪」のほとんどはウイルスが原因(※溶連菌や百日咳菌を除く)なので、細菌を退治する抗生物質を飲んでも効果はありません。
ところが、病院を受診する患者の多くは薬の処方を望んでいます。「寝てたら自然に治りますよ」と帰されたら、何のために病院へ来たのか、となってしまいます。
その結果、表面上の患者満足のために、本来は不必要である抗生物質を処方する、といったことがしばしば起こっていたことも事実です。
実際の患者の満足度は、抗生物質の処方の有無とは無関係で、病気についてより理解できた時に高くなることが既に研究結果としても出され1)、最近はこうした使い方はほとんどされていません。
1) Ann Emerg Med.50(3):213-220,(2007) PMID:17467120
「抗生物質」での感染予防~4000を超えるNNTの報告
「風邪は万病のもと」というように、風邪で体力や免疫力が落ちていると、肺炎などの合併症を起こしやすくなります。こうした合併症予防のために抗生物質が使われることもあります。
しかし実際のところ、こうした合併症予防に対する抗生物質のNNT(Number Needed to Treat)は4000を超えることが報告されています2)。これは、1人の合併症を予防するためには4000人に抗生物質を使う必要がある、ということを意味します。
2) BMJ.335(7627):982,(2007) PMID:17947744
抗生物質は、副作用で下痢を起こしやすい薬です。また、0.1~3%程度で発疹などの副作用も起こすことがあります。
つまり、4000人に抗生物質を使うと、計算上でも100人程度は下痢や発疹などの副作用を起こしてしまうことになります。
※「発疹」の副作用頻度の例 (参照:各添付文書)
『フロモックス』・・・0.1~3%未満
『メイアクト』・・・・・0.1~5%未満
『サワシリン』・・・・0.1~5%未満
確かに、高齢者や乳幼児、持病のある人など、体力や免疫力が低く合併症のリスクが高い人や、いざ合併症を起こした際に致命的になる恐れのある人は、しっかりと感染制御を行い、合併症の予防をする必要があります。
しかし、普通の健康な大人が風邪をひいた時に、合併症予防まで考えて抗生物質を使う必要があるのかどうかは、かなり疑問が残ります。
薬剤師としてのアドバイス:処方される機会が減っても、薬を置いておいたりしない
現在、日本の医療全体が抗生物質の処方量を減らそう、という方向に動いています。そのため、自分が病院で抗生物質を処方される機会も減ってくるかもしれません。
しかし、だからといって処方された抗生物質を飲まずにとっておいたりするようなことは、絶対にしないでください。
処方された抗生物質をきちんと最後まで飲まなければ、退治しそこねた細菌が「耐性菌」となり、次から抗生物質が効かなくなってしまう恐れがあります。
また、抗生物質は一つの薬が全ての細菌に効くわけではありません。感染症の原因となっている細菌の種類によって、明確に使い分ける必要があります。
似たような症状であっても、感染症の原因菌は様々なので、自己判断で適切な抗生物質を選ぶことはできません。
このように抗生物質は正しく選ぶことが難しく、また使い方を間違えると「耐性菌」という非常に大きな問題を惹き起こすため、市販もされていません。
抗生物質は、必ず医師の診察を受けて正しく選んでもらい、処方された分はきちんと最後まで飲み切るようにしてください。それが、抗生物質の使用量を減らすためにできる大切な行動です。
+αの情報:肺炎球菌による合併症は、ワクチンでの予防へ
肺炎球菌という細菌が原因で起こる肺炎は、風邪やインフルエンザがきっかけとなって起こる場合があります。こうした合併症の予防には、抗生物質を使うのではなく、現在は「肺炎球菌ワクチン」を使うようになっています。
65歳以上の高齢者や、糖尿病・腎不全・心不全などの病気、呼吸器系の病気を患っている人は、合併症のリスクが高いため、ワクチン接種が推奨されています3)。
3) 日本呼吸器学会 「成人市中肺炎診療ガイドライン(2007年)」
こうしたワクチンによる予防は、単に肺炎にかかる人を減らすだけでなく、抗生物質の使用量を減らすという視点からも非常に重要です。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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