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知っておくべきこと 妊娠、授乳

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妊娠中でも「安全」に使える薬とは?~元からあるリスクと薬の影響

 
 「妊娠中に薬を飲むと、胎児に悪影響が出るのではないか」、という心配をされる方はたくさんおられます。なかには、「妊娠中は全ての薬を使ってはいけない」と思い込み、治療を辞めてしまうこともありますが、こうした自己判断による薬の中断は母体の病状を悪化させ、母子ともに危険な状況に陥る大変危険なものです。疑問や不安があるときでも、噂話やSNSの情報だけで判断することなく、必ず主治医や薬剤師に相談するようにしてください。

 実際には、妊娠中でも使える薬は意外とたくさんあります。そのため、医師や薬剤師から「この薬は妊娠中でも安全に使えます」「使っても大丈夫です」と説明されて薬を渡されることもよくあります。しかし、この時の「安全」や「大丈夫」とは、自然な状態でも存在するベースラインのリスクを薬が高めるわけではない、という意味である点に注意が必要です。

 

自然な状態でも、流産は「7回に1回」は起こり得る

  妊娠中の薬について、「安全な薬」や「飲んでも大丈夫」という表現で説明されると、中には「リスクは0%だ」と勘違いしてしまう場合があります。しかし、薬を全く使わない自然な状態でも、流産はおよそ15%…つまり7回に1回くらいは起きてしまいます1,2)。(※先天異常は2~3%程度:年齢等によって異なります)。

 1) 南山堂「妊娠と授乳(改訂3版)」
 2) 日本産科婦人科学会「流産・切迫流産」

 これは「確率」で起こるものなので、特に明確な原因もない場合は多いのですが、何か異常が起きたたときは原因・犯人捜しをしてしまうのが人の性です。もし流産が起きた以前に薬を使っていた経験があったら、それがたとえ安全な薬であったとしても「あのとき薬を飲んだからではないか…?」と考えてしまうことに無理はありません。場合によっては「あのとき医師・薬剤師は安全だ、大丈夫だ、と言っていたのに…」「あの説明は嘘だったのか?」と疑いたくなることもあるかもしれません。


 そのため、医師や薬剤師が言う「妊娠中でも安全性評価が高い薬」「安全とされる薬」とは、「この薬を飲んでいる人の流産・先天異常のリスクは0%である」ではなく、「この薬は自然な状態でも存在するベースラインのリスクを高める恐れはない」という意味であること、たとえば流産のリスクで言えば、その薬を飲んでいる・飲んでいないにかかわらず、どちらの場合も等しく15%くらいのリスクがある、ということをまずは知っていただければと思います。

安易に「○○が原因」と決めつけて近寄ってくる人には要注意

 このときに気を付けて欲しいのは、何かが起きたときに「あの時に○○をしたからです」「それは貴方の△△が原因です」と安易に犯人を決めつけるようなアドバイスをして近寄ってくる人です。「薬を飲んだから」「レトルト食品を食べたから」「ファストフードを食べたから」「市販のシャンプーを使ったから」「エアコンを使ったから」…色々な手口で母親の罪悪感や責任感につけこみ、それらを使わない生活と称して高額商品を売り込んできたりします。

 罪悪感や責任感を抱きやすく、誰にも簡単には相談できない話だからこそ、色んな相談ができる主治医や薬剤師を普段のうちから見つけておいて欲しいと思います。

 

 

薬剤師としてのアドバイス:妊娠の可能性は、必ず医師・薬剤師に伝えて

 妊娠中でも安全に使える薬はたくさんあります。しかし、可能な限り避けなければならない薬や、よほどの事情がない限りは使わない薬、敢えてわざわざ選ぶ必要のない薬も、たくさんあります。特に、こうしたリスクのある薬は抗がん剤のように扱いが難しいイメージのある薬だけでなく、日常的に身近にある痛み止めや湿布薬、便秘薬、漢方薬など、ドラッグストアで気軽に購入できる薬の中にもあります。

 こうした薬を妊娠中にうっかり知らずに使ってしまうことは、可能な限り避けた方が良いです。
 そのため、「妊娠していることが確認できている場合」だけでなく、「妊娠している可能性がゼロではない」場合にも、必ずその旨を病院の医師や薬局の薬剤師に、あるいは市販薬を購入する際にも薬剤師や登録販売者へ伝えるようにしてください。

 

ポイントのまとめ

1. 薬を使わない自然な状態でも、流産や先天異常は起きてしまうことがある
2. 「妊娠中の安全性評価が高い薬」とは、このベースラインのリスクを高めることがない薬のことを指す
3. リスクのある薬は、痛み止めや湿布薬、便秘薬、漢方薬などの市販薬にも潜んでいるので注意

 

 

+αの情報:「薬の添付文書」を調べて、その文言に驚く必要はない

  インターネットがあれば薬の添付文書は誰でも簡単に読めますが、そこに書かれた文言に驚いてショックを受けてしまう人は時々おられます。たとえば、吐き気止めの『ナウゼリン(一般名:ドンペリドン)』の添付文書には、妊娠中は「禁忌」と記載されています3)。しかし、この薬は妊娠初期に気付かず飲んでしまっていても問題ないとされています4,5)。
 あるいは、インフルエンザのワクチンには「有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ接種する」との記載があります6)。この文言だけを見ると、他の人よりも接種を慎重に考えた方が良いような印象を受けますが、実際には妊婦がインフルエンザを発症すると重症化してしまうリスクが高い7)ことから、妊娠中にインフルエンザのシーズンを迎える場合にはむしろワクチンを接種することが推奨されています8,9)。

 3) ナウゼリン錠 添付文書
 4) J Obstet Gynaecol.33(2):160-2,(2013) PMID:23445139
 5) 日本産科婦人科学会「産婦人科診療ガイドライン-産科編2017」
 6) インフルエンザHAワクチン「第一三共」シリンジ 添付文書
 7) CDC「People at high risk of developing flu-related complications.」
 8) 国立成育医療研究センター「妊娠中のお薬Q&A 妊娠中にインフルエンザワクチンを接種できますか?」
 9) 日本プライマリ・ケア連合学会「おとなとこどものワクチンサイト 妊娠可能年齢の女性と妊婦のワクチン」

 医師や薬剤師が妊娠中に薬を使うかどうかを考える際、「薬の添付文書3,6)だけ」で判断するようなことは基本的にありません。実際にその薬を使った際のリスクを検証した疫学調査4)や、様々な専門機関の安全性評価5,8,9)なども踏まえて、更に病気の状態や妊娠の時期、薬の量や種類なども考慮して判断します。そのため、インターネットで薬の添付文書を見て、そこに書かれた文言だけを根拠に慌てる必要はありません。

 もし添付文書やそれを基にした情報で不安や疑問を感じた際は、主治医や薬剤師にその旨を相談してください。

 

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薬の比較と使い分け100(2017年)
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■日経メディカル開発
薬剤師のための医療情報検索テクニック(2019年)
■金芳堂
医学論文の活かし方(2020年)
服薬指導がちょっとだけ上手になる本(2024年)

 

【執筆】
じほう「調剤と情報」「月刊薬事」
南山堂「薬局」、Medical Tribune
薬ゼミ、診断と治療社
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【講演・シンポジウム等】
薬剤師会(兵庫県/大阪府/広島県/山口県)
大学(熊本大学/兵庫医科大学/同志社女子大学)
学会(日本医療薬学会/日本薬局学会/プライマリ・ケア連合学会/日本腎臓病薬物療法学会/日本医薬品情報学会/アプライド・セラピューティクス学会)

 

【監修・出演等】
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