不要な薬を薬局に返せば、返金してもらえる?~健康保険法上の解釈と残薬の活用方法
「要らない薬を返すから、返金して欲しい」
薬局には、しばしばこう言って薬を持参される方がおられます。しかし、不要な薬を回収して適切な方法で「廃棄」することはできますが、「返金」することはできません。「納得いかない」と食い下がる方もおられますが、法律上「返金」は不可能なため、日本全国どの薬局でも基本的に同じ回答が返ってきます。
記事の内容
返金に応じられない理由:健康保険法上の解釈「療養の給付」
調剤薬局で行われている「処方箋に基づき調剤し、薬をお渡しする」という行為は、単なる商品の売買ではなく、健康保険法上の「療養の給付」として、診察や治療と共に行われています。
※健康保険法による「療養の給付」 1)
健康保険の被保険者が業務以外の事由により病気やケガをしたときに、健康保険を使って治療を受けること。
a.診察
b.薬剤または治療材料の支給
c.処置・手術その他の治療
d.在宅で療養する上での管理、その療養のための世話、その他の看護
e.病院・診療所への入院、その療養のための世話、その他の看護
既に行われた診察や治療を、さかのぼって「無かったこと」にすることができないのと同様、調剤薬局で「療養の給付」としてお渡しした薬についても、返金できる性質のものではないと法律上の解釈がされています2)。
1) 全国健康保険協会「健康保険ガイド「療養の給付」」
2) 日病薬発第16-341号 平成17年1月27日付
「医療用麻薬」は返却してもらう義務があるが、「返金」はできない
容態が変わった、使用している患者が亡くなったなどの理由で「医療用麻薬」が余った場合、患者やその遺族は余った「医療用麻薬」を返却する義務があります。
調剤済みの「医療用麻薬」は、管理薬剤師が他者立ち合いの下、回収が困難な方法(焼却・放流・酸やアルカリによる分解など)で適切に廃棄し、30日以内に「調剤済麻薬廃棄届」を提出しなければならないからです3)。
しかし、この場合でも同様、患者や遺族に対して「返金」することはできません。
3) 麻薬及び向精神薬取締法 第29条、第35条
手を付けていない薬でも「再利用」はできない
全く手を付けていない薬であれば、返品されたものを「再利用」できるのではないか、という意見も散見されます。
しかし医薬品は、企業で製造された後、卸業者を介して薬局に届き、患者さんの手に渡るまで、徹底的な品質管理が行われています。薬局でも、薬剤師が薬ごとに適切な方法(温度・湿度・遮光など)で保管し、流通経路や製造ロット番号、使用期限や有効期限といった点まで管理を行っています。
一旦、薬局からお渡しした医薬品は、ご家庭における管理状況が不明であり、また別の流通経路からの医薬品と混ざってしまうこと、製造ロット番号などがわからなくなってしまうことなどが起こり得ます。
たとえお渡ししてから数分程度しか経過していなくとも、その医薬品に対する「異物混入のリスク」も考えなければなりません。
さらに、血液・体液などが付着していた場合は、それが感染症のリスクにもつながってしまいます。
患者さんからの「全く手を付けていない」「きちんと管理していた」「異物混入などしていない」といった主張は大変ごもっともなのですが、それを品質の根拠として返品された医薬品を流通に再び乗せることは、医薬品の適正な流通を司る薬剤師として絶対にできないことです。
薬剤師としてのアドバイス①:残薬は、事前に医師・薬剤師に伝える
飲み忘れなどの理由によって、薬が余ってくるという事態はよくあります。その場合、病院や薬局で薬を受け取る前に医師・薬剤師へその旨を伝えることで、今回の処方から差し引いて薬を受け取ることができます。
(例1)家に『タリオン』10mg錠が20錠残っている状態で受診
引き続き同じ薬が28日分処方されている場合、今回は『タリオン』を8日分だけ受け取る
(例2)家に『メトグルコ』250mg錠が30錠残っている状態で受診
引き続き同じ薬が28日分処方されている場合、今回の処方を削除し、『メトグルコ』は受け取らない
ただし、「白っぽい血圧の薬がたくさん残っている」という伝え方では、どの薬か特定することができないため、こうした差し引いた処方・調剤はできません。「どの薬が、どれだけ余っているのか」が正確に伝わるように、お薬手帳に残っている薬の数を記入する、あるいは薬局に現物を持参するなどして、医師・薬剤師に提示してください。
大量の薬が余って、何が何やらわからない場合
余っている薬が大量で、詳細を自力では把握できないような場合には、まとめて薬局に持参してください。
この場合も「返金」することはできませんが、品質や期限に問題がない薬で、今もご本人に継続して処方されているものについては、次回の処方から差し引いてもらえるよう調整するなど、整理・管理のお手伝いをすることができます。
薬剤師としてのアドバイス②:残薬の使い回しや、自己判断による減薬は絶対に避けて
「返金」してもらえないからといって、家族・兄弟・友人間で使い回すことは、絶対に止めてください。
本来、医薬品を使ったことで大きな副作用に見舞われた場合、「医薬品副作用被害救済制度」によって年金を受け取るなどの補償を受けることができます。しかし、この制度を受けられるのは「薬を適切に使用していた場合」に限られます。たとえ家族のものであっても、他人に処方された薬を使って起こった副作用では、この制度を受けることはできません4)。
4) 独立行政法人「医薬品医療機器総合機構」 医薬品副作用被害救済制度に関するQ&A
また、「不要な薬を返すから返金して欲しい」という患者さんには、「不要」ということを自己判断されている方も多くおられます。しかし、そもそも処方箋は、医師が医学的な見地から今の治療のために必要だと判断した薬が書かれたものです。自分が欲しいものを選んで買うショッピングとは異なります。
「なぜこの薬が必要なのか?」を理解しないまま、間違った取捨選択をすると、病状の悪化や副作用といった不利益を被る恐れがあります。どうしても薬を飲みたくない、減らしたいという場合は、きちんと医師・薬剤師と相談の上で、正しい優先順位で薬を減らすようにしてください。
【寄稿先】
※PharmaTribuneウェブ(薬剤師向けに一部改変)
https://ptweb.jp/article/2018/180524002990/
※メディカルトリビューン「あなたの健康百科」
http://kenko100.jp/articles/180524004581/
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