2歳未満の乳幼児に「抗ヒスタミン薬」は使える?~熱性けいれんのリスクと、市販薬を使う際の注意
記事の内容
回答:一部、使わない方が良い薬がある
『ペリアクチン(一般名:シプロヘプタジン)』や『ザジテン(一般名:ケトチフェン)』など、脳に移行しやすい「抗ヒスタミン薬」は、熱性けいれんのリスクを高めることが指摘されています。そのため、熱性けいれんを起こしたことがある子どもや、発熱した2歳未満の乳幼児では避けた方が良いです。
また、こうした脳に移行しやすい「抗ヒスタミン薬」は市販の小児用鼻炎薬にも広く使われていますが、発熱しているときは避けるなど、安易な使用は控える必要があります。基本的に、2歳未満の乳幼児の場合は、病院を受診することをお勧めします。
回答の根拠①:熱性けいれんのリスクと「抗ヒスタミン薬」の脳内移行性
脳へ移行しやすい「鎮静性」の抗ヒスタミン薬は、熱性けいれんのリスクを高めることが報告されています1)。
1) 脳と発達.46(1):45-6, (2014)
「鎮静性」の抗ヒスタミン薬とは、脳に移行しやすいもの、定義としては脳内ヒスタミン受容体占有率が50%を超えるものを指します2)。
古いタイプの「第一世代」の薬だけでなく、「第二世代」の薬でも『ザジテン』や『セルテクト(一般名:オキサトミド)』は脳へ移行しやすい「鎮静性」に分類され、避けるべき薬に挙げられています3)。実際に『ザジテン』では、「第一世代」の薬と同程度のリスクがあることも報告されています4)。
このことから、熱性けいれんを起こしたことのある乳幼児に対して「鎮静性」の抗ヒスタミン薬を使うことは推奨されていません5)。「第一世代」や「第二世代」という括りではなく、脳への移行性をもとに薬を選ぶ必要があります。
※熱性けいれんのリスクを高める恐れがある「鎮静性の抗ヒスタミン薬」 3)
『ペリアクチン(一般名:シプロヘプタジン)』
『ポララミン(一般名:d-クロルフェニラミン)』
『レスタミン(一般名:ジフェンヒドラミン)』
『タベジール(一般名:クレマスチン)』
『アタラックスP(一般名:ヒドロキシジン)』
『ザジテン(一般名:ケトチフェン)』
『セルテクト(一般名:オキサトミド)』
※安全とされる「非鎮静性の抗ヒスタミン薬」 3)
『アレグラ(一般名:フェキソフェナジン)』
『ザイザル(一般名:レボセチリジン)』
『アレジオン(一般名:エピナスチン)』
2) 日本耳鼻咽喉科学会会報.112(3):99-112,(2009)
3) 日本医事新報社.4732:105,(2015)
4) Pediatr Neurol.42(4):277-9,(2010) PMID:20304332
5) 日本小児神経学会「熱性けいれん診療ガイドライン2015」CQ7-1
回答の根拠②:2歳未満でも安全に使える「非鎮静性」の薬
熱性けいれんの発症ピークは、1歳2ヶ月~1歳6ヶ月の間とされています6)。
そのため、これまでに熱性けいれんを起こした経験がなくても、2歳未満の乳幼児の場合は「鎮静性」の抗ヒスタミン薬は避けた方が無難です。
6) Behrman Nelson’s Textbook of Pediatrics.18th ed
小児用の薬は「鎮静性」のものが多いですが、「非鎮静性」の薬でも『アレグラ』や『ザイザル』は0歳6ヶ月から使える抗ヒスタミン薬です7,8)。発熱した乳幼児など、熱性けいれんのリスクが高いときには貴重な選択肢になります。
※安全とされる抗ヒスタミン薬の小児用量 7,8,9)
『アレグラ』・・・・0歳6ヶ月~(ドライシロップ)
『ザイザル』・・・・0歳6ヶ月~(シロップ)
『アレジオン』・・・3歳~(ドライシロップ)
7) アレグラドライシロップ 添付文書
8) ザイザルシロップ 添付文書
9) アレジオンドライシロップ 添付文書
薬剤師としてのアドバイス:市販の鼻炎薬の扱いにも注意
熱性けいれんは、1~2歳ころをピークに5~6歳くらいまでの子どもで起こる、比較的よくあるけいれん症状です。基本的に、このけいれんによって脳が悪影響を受ける、といったことはありません。
しかし、一度熱性けいれんを起こした子どもは2回目、3回目と繰り返して起こすことが多く、また薬によってけいれんの症状が悪化する場合もあります。
そのため、熱性けいれんのリスクが高い乳幼児では「抗ヒスタミン薬」の選択も慎重に行う必要があります。特に、市販されている子ども用の鼻炎薬には「鎮静性」の抗ヒスタミン薬が使われているため、熱性けいれんのリスクが高い2歳未満の乳幼児では、安易に市販薬を使わず、病院を受診することをお勧めします。
ポイントのまとめ
1. 「鎮静性」の抗ヒスタミン薬は、熱性けいれんのリスクを高める恐れがある
2. 2歳未満でも使える「非鎮静性」の薬には、『アレグラ』や『ザイザル』がある
3. 市販の鼻炎薬には「鎮静性」の薬がよく使われているため、2歳未満の乳幼児には安易に使用しない
+αの情報①:市販薬に書かれた注意事項
市販の鼻炎薬のなかには2歳未満の乳幼児に使える商品も販売されていますが、いずれも使われているのは「第一世代」の抗ヒスタミン薬、つまり「鎮静性」に分類される薬です。
「第一世代」の薬は速効性に優れ、鼻水を止める効果も高いことから、症状が出てからでも効く薬としてよく使われていますが、眠気の副作用だけでなく、熱性けいれんのリスクにも注意が必要です。
このことから、子ども用の鼻炎薬に以下のような注意書きがされています。市販薬を使う際には必ず目を通すようにしてください。
※『ムヒの子ども鼻炎シロップS』の注意書き
2才未満の乳幼児には医師の診療を受けさせることを優先する
高熱がある場合は医師・薬剤師・登録販売者に相談する
+αの情報②:アメリカでの規制~2歳未満の乳幼児に対する感冒薬
日本よりもセルフメディケーションが進んでいるアメリカでは、乳幼児が感冒薬として「抗ヒスタミン薬」を過量摂取している傾向にあり、様々なリスクが顕在化しています。そのため、米国食品医薬品局(FDA)は2歳未満の乳幼児に対して「抗ヒスタミン薬」が含まれる感冒薬の使用を禁止しています10)。
10) 厚生労働省 医薬食品安全対策課「小児用かぜ薬・鎮咳去痰薬等の安全対策について」
今後日本でもセルフメディケーションが進むにつれ、同様の問題は起こる恐れがあります。市販薬も正しく選んで使うことが大切です。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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