『ブリリンタ』と『プラビックス』、同じ抗血小板薬の違いは?~個人差と休薬期間、服用回数
記事の内容
回答:個人差が小さく休薬期間も短い『ブリリンタ』と、1日1回で良く適応症が広い『プラビックス』
『ブリリンタ(一般名:チカグレロル)』と『プラビックス(一般名:クロピドグレル)』は、どちらも血液をサラサラにする抗血小板薬です。
『ブリリンタ』は効き目の個人差が小さく、また手術をする際の休薬期間も最短5日間と短くて済みます。
『プラビックス』は1日1回の服用で良く、また心臓・脳・末梢の3領域に広い適応があります。
『ブリリンタ』は、1日2回きちんと飲めば従来の抗血小板薬よりも高い効果が期待できますが、飲み忘れが多い人では病状が悪化してしまうリスクも高くなります。
そのため、薬や治療に対する理解度によっても使い分ける場合があります。
回答の根拠①:『ブリリンタ』の個人差が小さい理由~代謝酵素の影響
『プラビックス』は、主に肝臓の代謝酵素「CYP2C19」で代謝されてから薬としての作用を発揮するため、この酵素の働きが強いか弱いかによって、実際の治療効果にも影響してしまうことが報告されています1)。
1) プラビックス錠 添付文書
しかし『ブリリンタ』はこうした酵素による代謝が必要ないため、遺伝的素質(代謝酵素の強さ)に関わらず安定した効果を得ることができます2)。
2) ブリリンタ錠 インタビューフォーム
『ブリリンタ』の高い効果と推奨度
心筋梗塞など血管系の原因による死亡リスクを下げる効果は、『ブリリンタ』の方が『プラビックス』よりも高かったことが報告されています3)。
このことから、米国心臓病学会(ACC)や米国心臓病協会(AHA)は、冠動脈ステント留置を受けた急性冠症候群の患者などに対しては『プラビックス』より『ブリリンタ』を優先するようなガイドラインに改訂しています4)。
3) N Engl J Med.361:1045-57,(2009) PMID:19717846
4) アストラゼネカ(株)プレスルーム 「チカグレロルが米国心臓病学会および米国心臓病協会の急性冠症候群治療ガイドラインで推奨を受ける」,(2016)
回答の根拠②:『ブリリンタ』の短い休薬期間~可逆阻害と非可逆阻害
抗血小板薬は血液を固まりにくくする薬なので、副作用で出血しやすくなることがあります。
そのため、手術や内視鏡処置・抜歯など、出血の恐れがある処置を受ける場合には、事前に薬を中止あるいは減量するといった対応をしておく必要があります。
『プラビックス』など多くの抗血小板薬は、血小板に対して「非可逆(元には戻らない)」的に作用するため、血小板が新しく生まれ変わるまで効果が続きます。
そのため、血小板の寿命が7~10日であることを考慮し、一般的には処置の7~14日前から休薬しておく必要があります5)。
しかし、『ブリリンタ』は「可逆(簡単に元に戻る)」的な作用のため、血液中の薬の濃度が下がれば効き目も弱まります2)。そのため『ブリリンタ』の休薬は最短5日と短くて良いとされています6)。
5) 日本手術医学界 「手術医療の実践ガイドライン 改訂版2013」
6) ブリリンタ錠 添付文書
ただし、休薬期間は病気の状況や薬の量によっても変わるため、このような目安をそのまま個人に当てはめることはできません。薬は必ず主治医の指示に従って中断・減量し、絶対に自己判断では行わないようにしてください。
回答の根拠③:服用回数の差~1日1回と2回の手間
『ブリリンタ』は、1日2回飲む必要があります6)。
『プラビックス』をはじめ、従来の抗血小板薬はほとんどが1日1回で良かったため、服用の手間は増えてしまうデメリットがあります。
一般的に、1日の飲む回数が多くなればなるほど、飲み忘れが増えて病状のコントロールが難しくなる傾向があります。
そのため、病院などで厳密な管理をされている場合には十分に『ブリリンタ』の恩恵を受けられても、通院生活では飲み忘れ等でリスクが高まってしまう、という可能性も考える必要があります。
回答の根拠④:『プラビックス』の適応症の広さ~心臓・脳・末梢の領域
『ブリリンタ』は新しい薬のため、まだ「心臓」領域にしか適応症はありません。
『プラビックス』は『ブリリンタ』よりも古い分、既に世界でも広く使用され、使用実績が豊富にあります。そのため、「脳」・「心臓」・「末梢」の3つの領域で適応症を持っています(※ジェネリック医薬品では異なる場合があります)。
※ブリリンタの適応症 6)
心臓・・・経皮的冠動脈形成術(PCI)が適用される急性冠症候群(90mg錠)
※プラビックスの適応症 1)
心臓・・・経皮的冠動脈形成術(PCI)が適用される急性冠症候群、安定狭心症、陳旧性心筋梗塞
脳・・・・・虚血性脳血管障害(心原性脳塞栓症を除く)の再発抑制
末梢・・・末梢動脈疾患における血栓・塞栓形成の抑制
薬剤師としてのアドバイス:臨床試験と同じ効果が、現場でも得られるかどうか
臨床試験で素晴らしい結果が得られても、それは厳密な服薬管理をされているために得られるものであって、実際の現場ではそこまでの効果が得られない、ということは多々起こります。
特に、吸入薬や注射薬のように使い方が難しい薬、骨粗鬆症の薬のように飲むタイミングが複雑な薬、飲む回数が多い薬などは、こうした差が大きくなる傾向にあります。
『ブリリンタ』も1日2回の服用が必要だという点で、従来の抗血小板薬よりも手間が増えています。臨床試験のように高い効果が得られるかどうかは、きちんと薬を飲み続けられるかどうかにかかっているとも言えます。
ポイントのまとめ
1. 『ブリリンタ』は、個人差が小さく休薬期間も短いが、1日2回の服用が必要
2. 『プラビックス』は、心臓・脳・末梢の3つの領域に適応がある
3. 使い方の難しい薬は、臨床試験通りの効果が得られるとは限らない
添付文書・インタビューフォーム記載事項の比較
◆有効成分
ブリリンタ:チカグレロル
プラビックス:クロピドグレル
◆適応症
ブリリンタ
心臓・・・経皮的冠動脈形成術(PCI)が適用される急性冠症候群(90mg錠)、陳旧性心筋梗塞のうちアテローム血栓症の発現リスクが特に高い場合(60mg錠)
プラビックス
心臓・・・経皮的冠動脈形成術(PCI)が適用される急性冠症候群、安定狭心症、陳旧性心筋梗塞
脳・・・・・虚血性脳血管障害(心原性脳塞栓症を除く)の再発抑制
末梢・・・末梢動脈疾患における血栓・塞栓形成の抑制
◆用法
ブリリンタ:1日2回
プラビックス:1日1回
◆注意すべき代謝酵素
ブリリンタ:CYP3分子種(併用禁忌となる薬がある)
プラビックス:CYP2C19(個人差が問題となる)
◆剤型の種類
ブリリンタ:錠剤(60mg、90mg)
プラビックス:錠剤(25mg、75mg)
◆製造販売元
ブリリンタ:アストラゼネカ
プラビックス:サノフィ
+αの情報:『ブリリンタ』の適応症の違いに注意
『ブリリンタ』には60mgと90mgの2種類の錠剤がありますが、それぞれ適応症が全く異なることに注意が必要です6)。
90mg錠:経皮的冠動脈形成術(PCI)が適用される急性冠症候群
60mg錠:陳旧性心筋梗塞のうち、アテローム血栓症の発現リスクが特に高い場合(65歳以上、薬物療法を必要とする糖尿病、2回以上の心筋梗塞の既往、血管造影で確認された多枝病変を有する冠動脈疾患、又は末期でない慢性の腎機能障害など)
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
この記事へのコメントはありません。