『オーグメンチン』と『サワシリン』を併用するのは何故?~「アモキシシリン」の高用量と「クラブラン酸」の副作用・配合比率
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回答:「アモキシシリン」を高用量で使うため
『オーグメンチン(一般名:アモキシシリン + クラブラン酸)』と『サワシリン(一般名:アモキシシリン)』は、どちらもペニシリン系の抗生物質「アモキシシリン」の薬です。
「アモキシシリン」は、市中肺炎や中耳炎・副鼻腔炎などに対して1日1,500~2,000mgの高用量で使うことがあります。
このとき、『オーグメンチン』の錠数を増やすと「クラブラン酸」の量まで増えてしまうため、抗生物質の「アモキシシリン」だけを増やすために、『オーグメンチン』に『サワシリン』を追加して使うことがあります。
特に、「肺炎球菌」が主な原因菌である中耳炎や副鼻腔炎の場合、「クラブラン酸」を増やさなくても効果は得られるため、単純に『オーグメンチン』を増やす方法は一般的ではありません。
回答の根拠①:高用量の「アモキシシリン」と、『オーグメンチン』の上限量
抗生物質の「アモキシシリン」は、通常は1日750~1,000mgで使う薬です1)が、市中肺炎や中耳炎・副鼻腔炎に対しては1,500~2,000mgといった高用量での治療が推奨されています2)。
1) サワシリン錠 添付文書
2) 日本感染症学会・日本化学療法学会 「JAID/JSC 感染症治療ガイド2014」
ペニシリン耐性の菌に感染している場合は『オーグメンチン』を使うことがありますが、『オーグメンチン』は125Sを8錠・250Sを4錠(「アモキシシリン」として1日1,000mg)が上限量です3)。そのため、足りない分の500~1,000mgの「アモキシシリン」は、『サワシリン』を追加することで補います。
3) オーグメンチン配合錠 インタビューフォーム
この併用は、JAID/JSCの治療ガイドでも言及されている方法です。
※JAID/JSC 感染症治療ガイド2014の記述例
<細菌性肺炎の項目>
CVA/AMPC(オーグメンチン)については、添付文書通りの投与法では、AMPCとしては最大1,000mgまでしか投与できないので、さらにAMPC経口薬(サワシリン)の併用も考慮する。
[例] CVA/AMPC(125mg/250mg)1回1錠・1日3回 + AMPC(250mg)1回1錠・1日3回
回答の根拠②:単純な『オーグメンチン』の増量をしない理由
単純に『オーグメンチン』の量を増やすことをしないのには、二つ理由があります。
「クラブラン酸」の量まで増やすと副作用のリスクが高まることと、中耳炎・副鼻腔炎の場合には基本的に「クラブラン酸」を増やす必要がないからです。
増量した場合の、「アモキシシリン」と「クラブラン酸」の安全性
抗生物質の「アモキシシリン」は、量を増やしても比較的安全な薬です。実際に、「アモキシシリン」2,000mg + 「クラブラン酸」125mgの治療では、「アモキシシリン」875mg + 「クラブラン酸」125mgの治療と安全性は変わらないとする報告があります4)。
4) J Antimicrob Chemother.57(3):536-45,(2006) PMID:16446376
しかし、「クラブラン酸」は量が増えると下痢などの副作用のリスクが高くなります5)。そのため、単純に『オーグメンチン』を増やすという方法は望ましくありません。
5) CMAJ.187(1):E21-31,(2015) PMID:25404399
配合比率と肺炎球菌に対する抗菌力
『オーグメンチン』は、「アモキシシリン」と「クラブラン酸」が2:1の比率で配合されています。これは、配合比率が2:1の時に最も抗菌力が高くなるからです3)。しかし、「肺炎球菌」や「インフルエンザ菌」に対する抗菌力は、14:1の配合比率でも変わらないことがわかっています6)。
6) 新薬と臨床.54(9):1056-72,(2005)
市中肺炎や中耳炎・副鼻腔炎の多くは、この「肺炎球菌」や「インフルエンザ菌」によって起こります。そのため、「クラブラン酸」の配合比率が低くなってしまっても特に問題はありません。
このように、原因菌によっては「クラブラン酸」の量まで増やす必要がないため、『オーグメンチン』の増量ではなく『サワシリン』の追加という方法がとられます。
薬剤師としてのアドバイス:薬の量が増えると、お腹の調子も崩しやすくなる
『オーグメンチン』と『サワシリン』を併用する場合、抗生物質の量は多くなるため、お腹の調子も崩しやすくなります。しかし、お腹の調子を崩したからといって抗生物質を途中で止めてしまうと、治療ができないだけでなく、菌が耐性を獲得し、次からの薬が効かなくなってしまう恐れがあります。
副作用が気になった場合は医師・薬剤師に相談するようにし、自己判断で薬を止めたりしないようにしてください。
ポイントのまとめ
1. 「アモキシシリン」を高用量で使うため、『オーグメンチン』と『サワシリン』を併用することがある
2. 単純に『オーグメンチン』を増やすと、「クラブラン酸」が過量になる
3. 「肺炎球菌」や「インフルエンザ菌」を退治する場合、「クラブラン酸」の配合比率が低くても問題ない
+αの情報①:子ども用の『クラバモックス』は14:1の配合比率
『オーグメンチン』と同じ「アモキシシリン」と「クラブラン酸」の配合薬には、子ども用の『クラバモックス』があります。この『クラバモックス』は、『オーグメンチン』と異なり14:1の配合比率になっています5)。
これは、「クラブラン酸」の量が増えると副作用も多くなること2)、小児感染症の主な原因は「肺炎球菌」や「インフルエンザ菌」であること6)が要因です。
+αの情報②:歯科領域でも使えるように
「アモキシシリン」と「クラブラン酸」の配合剤である『オーグメンチン』や『クラバモックス』は、歯科領域でも使うことができるようになりました7)。
7) 社会保険診療報酬支払基金 審査情報提供事例(薬剤)319:歯科薬物療法 →資料
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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