『アマリール』・『グリミクロン』・『オイグルコン』、同じ糖尿病治療薬の違いは?~SU類の付加価値と作用の強さ
記事の内容
回答:日本人向きの『アマリール』、網膜症を防ぐ『グリミクロン』、作用が強い『オイグルコン』
『アマリール(一般名:グリメピリド)』・『グリミクロン(一般名:グリクラジド)』・『オイグルコン(一般名:グリベンクラミド)』は、全て「スルホニル尿素類(SU類)」に分類される、インスリン分泌を促す薬です。
『アマリール』には「インスリン抵抗性」を改善する効果があり、日本人向きの薬です。
『グリミクロン』には、三大合併症の一つである「糖尿病性網膜症」の進行を抑える効果があります。
『オイグルコン』は、血糖値を下げる作用が最も強力です。
いずれの薬も、低血糖を起こしやすいため血糖値の変化には注意が必要ですが、古くから使われている薬のため値段が安く、使用実績も豊富なため、今でもインスリンが少なくなっているタイプの糖尿病に広く使われています。
回答の根拠①:『アマリール』~日本人向きな「インスリン抵抗性」の改善効果
『アマリール』は、膵臓に作用してインスリン分泌を促すだけでなく、「インスリン抵抗性」を改善する効果があります1)。これには、『アマリール』が糖輸送担体の活性化など膵臓以外にも作用することが関係していると考えられています1)。
1) アマリール錠 インタビューフォーム
「インスリン抵抗性」が増大すると、膵臓がインスリンを分泌していても肝臓や筋肉が血液中から糖を取り込めず、血糖値が高いままの状態が続いてしまうため、糖尿病の進展につながります。
こうした「インスリン抵抗性」は、内臓脂肪の増加に伴って増大することが知られていますが、特に日本人は欧米人に比べて内臓脂肪がつきやすいことが指摘されています2,3)。そのため、『アマリール』はより日本人の病態に適した薬と言えます。
2) Acta Diabetol.40:S302-4,(2003) PMID:14618500
3) Metabolism.58(8):1200-1207,(2009) PMID:19428036
心筋への悪影響
「SU類」は、膵臓のβ細胞にある「ATP感受性Kチャネル」に作用することで、インスリン分泌を促します。しかし、この「ATP感受性Kチャネル」は心臓の筋肉にも存在するため、「SU類」が心筋に影響する可能性が指摘されています4)。
この中で『アマリール』は、心筋の機能には悪影響を与えないことが確認されています5)。
4) Diabetes.47(9):1412-8,(1998) PMID:9726229
5) Circulation.103(25):3111-6,(2001) PMID:11425777
回答の根拠②:『グリミクロン』と「糖尿病性網膜症」
『グリミクロン』は、膵臓に作用してインスリン分泌を促すだけでなく、「網膜症」の進展を抑える効果があります6)。これには、『グリミクロン』の抗血栓作用や血小板機能抑制作用などが関係していると考えられています7)。
6) 糖尿病.26:531,(1983)
7) グリミクロン錠 インタビューフォーム
糖尿病で高血糖状態が続くと、眼の小さな血管を詰まらせてしまうことがあります。こうした「網膜症」は、糖尿病の三大合併症の一つとされ、大きな問題となっています。
実際に『グリミクロン』は、他の「SU類」と比べてこの「網膜症」を防ぐ効果が高いことも報告されています8)。
8) 糖尿病.47(4):283-9,(2004)
回答の根拠③:『オイグルコン』~最も作用が強いSU類
『オイグルコン』は、「SU類」の中でも作用が最も強力です9)。しかし作用が強力な分、低血糖の発生頻度も高く、より注意深い血糖コントロールが必要です。
※添付文書上の、低血糖の発生頻度
アマリール:1.44%
グリミクロン:1.9%
オイグルコン:2.5%
特に、米国糖尿病学会(ADA)や欧州糖尿病学会(EASD)のガイドラインでは、低血糖リスクの観点から、通常は作用が強力な『オイグルコン』以外の「SU類」を使うことを推奨しています10)。
9) 南江堂「今日の治療薬 (2016)」
10) Diabetes Care.32(1):193-203,(2009) PMID:18945920
大きな血糖変動は、心血管死のリスクにもなる
『オイグルコン』は血糖値を大きく変動させることで、動脈硬化を進行させるリスクも指摘されています。
実際、『オイグルコン』は他の「SU類」と比べて、心筋梗塞などの心血管死が多いことが報告されています11)。
11) Diabetes Metab Res Rev.22(6):477-82,(2006) PMID:16634115
薬剤師としてのアドバイス:低血糖を起こさない治療を
糖尿病治療の目的は、糖尿病の3つの合併症(腎症・網膜症・神経障害)を起こすことや、動脈硬化が進むことを防ぎ、健常人と同じ生活を確保することです。また、その際には低血糖を起こさない治療をすることが大切です。
「SU類」にはインスリン分泌を促す作用があるため、低血糖を起こしやすい傾向があります。
特に、体調不良で食事が少ない場合、コース料理などでゆっくりと食事をする場合、精進料理など糖質の少ない食事をする場合などは、低血糖を起こしやすくなります。低血糖を起こした場合に備えて、ブドウ糖などの糖分は常に携帯しておくようにしてください。
また、『ベイスン(一般名:ボグリボース)』などの「α-グルコシダーゼ阻害薬」を使っている場合は、糖分は必ず「ブドウ糖(グルコース)」でなければならないことにも注意が必要です。
ポイントのまとめ
1. 『アマリール』はインスリン抵抗性の改善効果、『グリミクロン』は網膜症を防ぐ効果が高い
2. 『オイグルコン』は作用が強力な分、低血糖の副作用にも注意
3. 低血糖を起こした場合に備えて、ブドウ糖は必ず携帯しておく
添付文書、インタビューフォーム記載内容の比較
◆適応症
アマリール:2型糖尿病
グリミクロン:インスリン非依存型糖尿病(2型糖尿病の旧称)
オイグルコン:インスリン非依存型糖尿病(2型糖尿病の旧称)
◆用法
アマリール:1日1~2回、食前または食後
グリミクロン:1日1~2回、食前または食後
オイグルコン:1日1~2回、食前または食後
◆初期用量と、最大用量
アマリール:0.5~1mgから開始、最大6mg
グリミクロン:40mgから開始、最大160mg
オイグルコン:1.25~2.5mg、最大10mg
◆低血糖の発生頻度
アマリール:1.44%
グリミクロン:1.9%
オイグルコン:2.5%
◆錠剤のバリエーション
アマリール:錠(0.5mg、1mg、3mg)、OD錠(0.5mg、1mg、3mg)
グリミクロン:錠(20mg[HA]、40mg)
オイグルコン:錠剤(1.25mg、2.5mg)
◆製造販売元
アマリール:サノフィ
グリミクロン:大日本住友製薬
オイグルコン:中外製薬
+αの情報:低血糖の自覚症状と血糖値
通常、血糖値が60mg/dLを下回ると、発汗・手指の震え・動悸・頻脈などの交感神経症状が現れます。
更に、血糖値が45mg/dLを下回ると、頭痛や生あくび・眠気などの中枢症状が現れます。
また、血糖値が30mg/dLを下回ると、昏睡などを起こし、放置すると生命の危機に陥る恐れがあります。
そのため、血糖値を下げる効果のある薬を使う場合には、薬の効き過ぎによる低血糖の副作用を防ぐことが最も大きな課題になります。
もし薬を使っていて低血糖の症状が現れた場合には、「ブドウ糖」などで糖分を補給し、一時的に血糖値を回復させる必要があります。
しかし、低血糖症状を一旦「ブドウ糖」などで改善しても、30分程度で再び低血糖症状をぶり返してしまうケースがあります。こうした慢性的な低血糖(遷延性低血糖)は、特に高齢者や腎障害の患者が「SU類」を使うと起こるリスクが高いことが知られています12)。
12) 厚生労働省 重篤副作用疾患別対応マニュアル「代謝・内分泌 低血糖」
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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