『チラーヂン』と『メルカゾール』、同じ甲状腺の薬の違いは?~逆の作用の薬を併用する目的
記事の内容
回答:甲状腺ホルモンを増やす『チラーヂン』、減らす『メルカゾール』
『チラーヂン(一般名:レボチロキシン)』は、甲状腺ホルモンを増やす薬です。
『メルカゾール(一般名:チアマゾール)』は、甲状腺ホルモンを減らす薬です。
甲状腺ホルモンは新陳代謝やエネルギー生産などに関わっているため、少な過ぎても多過ぎても問題があります。そのため、甲状腺ホルモンが少ない場合は『チラーヂン』、多い場合は『メルカゾール』を使って、適切なホルモン量に調節します。
また、薬の量を調節するだけでは効果が安定しない、といった場合、一時的に『チラーヂン』と『メルカゾール』を併用することもあります。
回答の根拠①:甲状腺ホルモンとして作用する『チラーヂン』
『チラーヂン』は、体内で甲状腺ホルモンとして作用します1)。
1) チラーヂンS錠 インタビューフォーム
甲状腺の機能が低下し、甲状腺ホルモンが少なくなると、新陳代謝やエネルギー生産能力が低下します。
その結果、皮膚がカサカサになったり、体温が低くなったり、食べる量は少ないのに体重が増えたり、疲れやすくなったり、といった症状が起こります。
この場合、『チラーヂン』などで甲状腺ホルモンを体内に補充することで、症状を改善することができます。
回答の根拠②:甲状腺ホルモンを抑える『メルカゾール』
2) メルカゾール錠 インタビューフォーム
甲状腺ホルモンが異常に働き、甲状腺ホルモンが多くなると、新陳代謝やエネルギー生産能力が過剰になります。
その結果、体温が上がって暑がりになったり、いくら食べても体重が減ったり、じっとしていても動悸や息切れを起こしたり、指先が震えたり、といった症状が起こります。
この場合、『メルカゾール』などで甲状腺ホルモンの作用を弱めることで、症状を改善することができます。
回答の根拠③:『チラーヂン』と『メルカゾール』を併用する目的
甲状腺機能亢進症である「バセドウ病」の治療初期には、病気として甲状腺ホルモンが多いのに、『メルカゾール』の作用によって甲状腺機能低下症と同じ症状が現れることがあります。
この場合、通常は『メルカゾール』の量を減らすことで対応します。
しかし、中には『メルカゾール』を減らすと病状が悪化し、増やすとやはり薬が効き過ぎる、といったように、薬の量を調節するだけでは不安定になってしまうケースもあります。
こういった場合、甲状腺ホルモンの作用を安定させる(症状を抑える)目的で、『チラーヂン』と『メルカゾール』を一時的に併用する場合があります3)。
3) 厚生労働省 「重篤副作用疾患別対応マニュアル-甲状腺機能低下症」
特に、『メルカゾール』は糖衣錠なので正確に半分に割ることが難しく、また粉砕しても苦味が出ます2)。そのため、5mg単位以下での微調節をしづらいことから、こうした併用を行うことも選択肢の一つとなります。
ただし、将来的に併用を中止できる見込みがなければ別の治療方法を考える必要があります。
併用療法の歴史
『チラーヂン』と『メルカゾール』を併用する治療方法(Block and Replacement Therapy)は、「バセドウ病」の新たな治療方法として注目されたことがあります4)。
しかし、現在では寛解率を高めることはできないとして、特に推奨はされていません5)。
4) N Engl J Med.324(14):947-53,(1991) PMID:1900575
5) Cochrane Datebase of Syst Rev.18;(2):CD003420,(2005) PMID:15846664
そのため、上記のような一時的なもの以外、併用は一般的ではありません。
薬剤師としてのアドバイス:妊娠がわかった時点で、主治医に連絡を
甲状腺機能亢進症の「バセドウ病」は、妊娠可能な年齢の女性に多い傾向があります。
しかし、『メルカゾール』は妊娠初期(特に4~7週)まではできる限り避けた方が良いとされ、妊娠の初期から中期にかけて使うべき薬の種類や量が変わることがあります。
そのため、薬がまだ残っていても、妊娠が判明した時点ですぐに主治医に連絡し、今後の対応を相談するようにしてください。
ポイントのまとめ
1. 『チラーヂン』は甲状腺ホルモンを増やす、『メルカゾール』は甲状腺ホルモンを減らす
2. 『メルカゾール』の用量調節だけでは症状が落ち着かない場合、一時的に併用することもある
3. 妊娠初期は使うべき薬が変わるので、妊娠がわかった時点ですぐ主治医に連絡を
添付文書、インタビューフォーム記載内容の比較
◆適応症
チラーヂン:甲状腺機能低下症、粘膜水腫、クレチン病、甲状腺腫
メルカゾール:甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)
◆用法
チラーヂン:1日1回
メルカゾール:1日1~4回
◆剤型
チラーヂン:錠(12.5μg、25μg、50μg、75μg、100μg)、散(0.01%)
メルカゾール:錠(5mgのみ)、注射
◆妊娠中の安全性評価
チラーヂン:オーストラリア基準【A】(※最もリスクが低い、安全性が高いという評価)
メルカゾール:妊娠初期(特に4~7週まで)はできる限り避ける (※日本甲状腺学会 「妊娠初期のチアマゾール投与に関する注意喚起について」)
◆製造販売元
チラーヂン:あすか製薬
メルカゾール:あすか製薬
+αの情報①:『チラーヂン』は、就寝前か起床時(朝食前)が良い
『チラーヂン』はコーヒーなどの飲食物によって吸収が阻害されるため、就寝前か起床時(朝食前)の服用が良いとされています6)。
6) Arch Intern Med.170(22):1996-2003,(2010) PMID:21149757
+αの情報②:甲状腺刺激ホルモン(TSH)の意義
甲状腺に多少の異常が起きても、甲状腺刺激ホルモン(TSH)が巧くバランスを調節してしまうため、自覚症状が全く現れないケースがあります。
甲状腺ホルモンの量は正常でも、甲状腺刺激ホルモン(TSH)が低い場合、ちょっとの刺激でホルモンが分泌されていることを意味します。これは、潜在的に「甲状腺機能亢進症」が起こっている状態です。
甲状腺ホルモンの量は正常でも、甲状腺刺激ホルモン(TSH)が高い場合、ホルモン分泌のためには通常よりも強い刺激が必要であることを意味します。そのため、将来的に「甲状腺機能低下症」を起こすリスクが高いと言えます。
そのため、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の測定は甲状腺の状態を知るために重要で、治療方針を決める際や、将来的なリスクの評価にも役立ちます。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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