お屠蘇は漢方薬?~本来の薬効作用と、薬との相互作用
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回答:由来は漢方薬、一口飲むだけでは薬効も相互作用もほとんど無い
正月に飲む「お屠蘇」は漢方薬の『屠蘇散』が由来です。
古代中国の名医・華佗が、流行病の予防のために「邪を屠り、心身を蘇らせる薬」として考案したものがはじまりと言われています。
薬草学の集大成とされる「本草綱目」では、『屠蘇酒』は薬用酒の部69種の一つとして掲載されています。
一般的には5~6種、多くて10種の生薬を組み合わせた処方ですが、書物や時代・地域によって多少の違いがあります。
しかし、主に胃腸の働きを盛んにし、血行を良くすることで身体を温めるなど、風邪の予防を目的とした処方である点は共通しています。
現代のように作用の強い生薬を使わず、元旦に一口飲むくらいでは薬理作用もほとんど発揮されないため、副作用や他の薬との相互作用などの心配は必要ありません。単なる「願掛け」の飲み物です。
ただし、アルコール自体の影響はあるため、飲み過ぎには注意が必要です。
回答の根拠:『屠蘇散』の今と昔の処方
昔の日本で用いられた「八味」の『屠蘇散』の処方は、以下のようなものです。
■烏頭(ウズ)・・・キンポウゲ科トリカブトの種。
強心作用があり、全身の循環機能を促進する。
■大黄(ダイオウ)・・・タデ科ダイオウの根茎。
便通など、胃腸の働きを改善する目的で使う。
■白朮(ビャクジュツ)・・・キク科オケラの根茎。
食欲増進・健胃など、強壮薬として使う。
■山椒(サンショウ)・・・ミカン科サンショウの果皮。
身体を温め、腹部の血液循環を良くする。
■桔梗(キキョウ)・・・キキョウ科キキョウの根。
鎮咳・去痰作用を持ち、咳止めとして使う。
■桂皮(ケイヒ)・・・シナモンのこと。
水分代謝を調節する作用があり、解熱・発汗薬として使う。
■防風(ボウフウ)・・・セリ科ボウフウの根。
発汗・解熱作用があり、主に風邪などの感染症予防に使う。
■陳皮(チンピ)・・・ミカン科ウンシュウミカン成熟果実の皮。
芳香性の健胃薬で、消化不良に使う。
このうち、今の日本で風習として使われる「お屠蘇」では、作用の強い「烏頭(ウズ)」や「大黄(ダイオウ)」が取り除かれ、代わりに風味を整える「丁子(チョウジ)」などが追加されているものが一般的です。
その結果、「お屠蘇」が持っている薬効薬理も、主に胃腸の働きを整え、身体を温める作用だけのやさしめのものになっています。
薬剤師としてのアドバイス:理にかなった「お屠蘇」だが、今はほとんど”願掛け”
「お屠蘇」は本来、寒い冬を健康に乗り切るための風邪予防であったり、正月の食べ過ぎに対して胃腸の働きを整える作用が期待できたりと、理にかなった処方の漢方薬です。
しかし、漢方薬はそもそも1日3回、最低でも2週間程度は飲み続けてみなければ、効果の判定もできません。「お屠蘇」を元旦に一杯飲むだけでは、有効成分の摂取量もごく僅かで、薬理作用はほとんど期待できません。
そのため、実質は正月料理をより楽しむための食前酒、無病長寿のための「願掛け」の風習になっています。
+αの情報:「アルコール」は別
先述の通り、「お屠蘇」に含まれる生薬成分で副作用や相互作用を起こす心配はありませんが、「アルコール」は別です。
飲酒を控える必要がある場合には、正月でも医師・薬剤師の指示に従うようにしてください。
また、アルコールは寝ても分解されません。知らないうちに飲酒運転になることがないよう、注意してください。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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