『カルナクリン』ってどんな薬?~めまいや耳鳴りに対する作用機序と、『アデホスコーワ』との違い
回答:血管を広げ、臓器への血流量を増やす薬
『カルナクリン(一般名:カリジノゲナーゼ)』は、血管を広げて臓器への血流量を増やし、その臓器の機能を改善させる薬です。 メニエール病によるめまい・耳鳴りの症状は、内耳の血流量が低下したり、左右の神経伝達のバランスが崩れることによって起こります。
そのため、『カルナクリン』で内耳の血流量を増やすことで、症状を緩和することができます。
また、指先の血流量を増やすことで、更年期障害による手足の冷えにも効果を発揮します。
回答の根拠①:「キニン」を介して、血管拡張因子を産生する作用
『カルナクリン』は、「キニノーゲン」を分解して「キニン」を産生する酵素です。産生した「キニン」はブラジキニン受容体に作用し、血管拡張因子である一酸化窒素(NO)やプロスタサイクリン(PGI2)を産生します。
NOやPGI2は、血管平滑筋を弛緩させることで血管を拡張し、血流を改善させます1)。
1) カルナクリン錠 インタビューフォーム
このとき、どの臓器の血流を改善させるかによって、様々な症状に効果があります。
内耳 → メニエール病の症状を緩和 2)
手足の指 → 冷え症などの末梢循環障害の症状を緩和 3)
網膜 → 網膜静脈血栓症などの障害を緩和 4)
2) 耳鼻と臨床.27:90,(1981)
3) 薬理と治療.5:341,(1977)
4) 日本眼科学会雑誌60:30,(1956)
回答の根拠②:血圧への影響
『カルナクリン』によって産生される、一酸化窒素(NO)やプロスタサイクリン(PGI2)は、非常に強力な血管拡張因子です。そのため、末梢の血管だけでなく大きな血管にも作用し、『カルナクリン』単体でも高血圧症に対して降圧作用を発揮することが報告されています5)。
5) 基礎と臨床.9(1):83,(1975)
更に、高血圧治療薬であるACE阻害薬も「キニン」を増やす作用があることから、併用によって降圧効果が強くなることがあります6)。
6) カルナクリン錠 添付文書
しかし、現在の高血圧治療は、ACE阻害薬やARB・Ca拮抗薬などを軸とした、有効かつ安全な治療方法が確立されているため、『カルナクリン』を降圧治療の主薬とすることは一般的ではありません。
+αの情報:『アデホスコーワ』との違い
同じく末梢循環を改善する薬に、『アデホスコーワ(一般名:アデノシン三リン酸)』があります。『アデホスコーワ』も『カルナクリン』と同様、内耳循環を改善するため、「メニエール病」のめまい・耳鳴りに効果があります。
しかし、『カルナクリン』が血管拡張因子を介して血管を拡張させていたのに対し、『アデホスコーワ』は有効成分である「アデノシン三リン酸(ATP)」が直接末梢の血管を拡張させます。つまり、全く異なる作用を持つ別の薬です。
更に、『アデホスコーワ』には心筋収縮力の増強作用や、脳や内耳の代謝賦活作用、神経伝達の効率化作用、胃の粘液量増加・運動改善作用など、幅広い臓器の機能改善効果があります7)。
また、血圧への影響に対しても違いがあります。
『アデホスコーワ』も1mg/kg以上を静脈注射することで血圧が低下することが報告されています7)が、添付文書上には低血圧に関係する副作用は記載されておらず、降圧薬との併用に関する記載もありません。
そのため、『アデホスコーワ』は通常の内服では大きな血管に作用せず、血圧にも影響しないと考えられます。
7) アデホスコーワ顆粒 インタビューフォーム
※『カルナクリン』の適応症
高血圧症・メニエール症候群・閉塞性血栓血管炎における末梢循環障害の改善、更年期障害・網脈絡膜の循環障害の改善
※『アデホスコーワ』の適応症
頭部外傷後遺症、心不全・調節性眼精疲労・消化管機能低下による慢性胃炎、メニエール病および内耳障害に基づくめまい(顆粒のみ)
薬剤師としてのアドバイス:どちらも効果はすぐに現れないが、続けて飲む薬
『カルナクリン』も『アデホスコーワ』と同様、頓服のように飲んですぐに効く薬ではなく、じわじわと効いてくるタイプの薬です。そのため、効果がすぐに実感できなくとも、しばらくは続けて飲み続ける必要があります。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
この記事へのコメントはありません。