『ラミシール』と『イトリゾール』、同じ内服の水虫薬の違いは?~効果と治療期間、副作用や併用禁忌による使い分け
記事の内容
回答:効果が高く併用禁忌のない『ラミシール』、治療期間が短く副作用の少ない『イトリゾール』
『ラミシール(一般名:テルビナフィン)』と『イトリゾール(一般名:イトラコナゾール)』は、どちらも水虫の治療に使う「抗真菌薬」です。
『ラミシール』の方が効果は高い傾向にあり、また飲み合わせの悪い「併用禁忌」の薬もありませんが、副作用を避けるため定期的に血液検査をする必要があります。
『イトリゾール』の方が治療は短期間で済み、副作用が少ないため基本的に血液検査も必要ありませんが、飲み合わせの悪い「併用禁忌」の薬がたくさんあります。
このように『ラミシール』と『イトリゾール』は一長一短なため、その人の状況に応じて使い分けるのが一般的です。また、薬の飲み方も大きく異なるため、服薬に対する理解によって使い分けることもあります。
回答の根拠①:治療効果と治療期間の差
『ラミシール』や『イトリゾール』は、外用薬では治りにくい爪白癬の治療によく使いますが、爪白癬に対する治療効果は、『ラミシール』の方が高いとされています1)。このことから、海外では『ラミシール』が爪白癬の第一選択薬で、『イトリゾール』は代替療法として使われています。
日本で使われている『ラミシール』の量は海外の半分(1日125mg)で、この量での優劣ははっきりしていませんが、125mgでも6ヶ月の治療を行えば250mgでの治療と同じ程度の治療効果が得られるとされています2)。
1) BMJ.318(7190):1031-5,(1999) PMID:10205099
2) 日皮会誌.118:3089-97,(2008) CiNNi:130004708578
一方、爪白癬に対する『イトリゾール』の「パルス療法」は3ヶ月(※服薬は2ヶ月と1週間の時点で完了)で済みます3)。
3) イトリゾールカプセル 添付文書
このことから、時間がかかってもより高い効果を期待するならば『ラミシール』、短い時間で治療を済ませたい場合は『イトリゾール』を、それぞれ選ぶことができます。
ただし、『ラミシール』と『イトリゾール』には副作用や相互作用に大きな違いがあるため、持病や併用薬との兼ね合いによって薬を選ぶケースも少なくありません。
回答の根拠②:血液検査と副作用~『ラミシール』の注意点
『ラミシール』は、稀に肝機能障害や血球減少といった厄介な副作用を起こすことがあります。このような副作用を避けるため、服用中は定期的に血液検査をするよう決められています4)。
4) ラミシール錠 添付文書
一方、『イトリゾール』ではこうした厄介な副作用は少なく、水虫治療に使う短期間であれば血液検査なしで使うこともできます3)。
回答の根拠③:併用禁忌と相互作用~『イトリゾール』の注意点
『ラミシール』には、飲み合わせの悪い「併用禁忌」の薬はありません4)。
一方、『イトリゾール』は肝臓の代謝酵素「CYP3A4」や、薬の排泄に関わる「P糖蛋白」を阻害する作用があり、他の薬の代謝・排泄を遅らせ、作用を強めてしまうことがあります3)。
睡眠薬の『ハルシオン(一般名:トリアゾラム)』や抗凝固薬の『プラザキサ(一般名:ダビガトラン)』など、特に危険な中毒症状を起こし得る薬の血中濃度を高めることも報告されているため、飲み合わせには細心の注意を払わなければなりません。
※『イトリゾール』の併用禁忌は非常に多いため下記参照
「CYP3A4」や「P糖蛋白」は多くの薬の代謝・排泄に関わっているため、全ての薬について検討がされているわけではありません。『イトリゾール』の添付文書などに記載がなくとも、代謝・排泄経路によっては相互作用を起こす恐れがあることに注意が必要です。
回答の根拠④:水虫に対する用法の違い~パルス療法
『ラミシール』で治療する場合、1日1回の服用をしばらく続ける必要があります4)。
一方、『イトリゾール』は「1日2回を7日間服用したあと、3週間休薬する」、これを合計3回繰り返す飲み方をします3)。これを「パルス療法」と呼びます。
間違って毎日続けて飲んでしまうと副作用を起こす恐れがあり、また休薬のあと薬を飲み忘れてしまうと治療ができません。そのため、この複雑な飲み方を実行できない可能性のある人には、適していません。
『イトリゾール』は飲むタイミングも大事
『イトリゾール』の「カプセル」は、食直後に服用する必要があります。空腹時に服用すると吸収が大きく低下し、薬の最高血中濃度は約55%、AUCは約33%に低下してしまうため、治療効果に大きく影響する恐れがあります3)。
『イトリゾール』の「内用液」は逆に空腹時に服用する必要がありますが、水虫治療の「パルス療法」には使いません5)。
5) イトリゾール内用液 添付文書
薬剤師としてのアドバイス:濁った爪は、生え変わるまで綺麗にならない
『ラミシール』や『イトリゾール』は、主に爪の水虫である爪白癬に使います。しかし、どちらの薬も「菌を退治する」ための「抗真菌薬」であって、「爪を綺麗にする薬」ではありません。そのため、爪白癬によって濁ってしまった爪は、新しく健康な爪に生え変わるのを待つ必要があります。
爪の生え変わりは年単位での時間がかかります。見た目に効果が現れないことで、途中で薬を止めてしまう人が少なくありませんが、医師からOKをもらえるまでは治療を続け、自己判断で途中で止めないようにしてください。
ポイントのまとめ
1. 『ラミシール』は、時間はかかるが効果は高く、血液検査は必要だが飲み合わせの悪い薬は少ない
2. 『イトリゾール』は、短期間で治療が完了し、血液検査もしなくて良いが、飲み合わせの悪い薬が多い
3. 爪が綺麗になるには、新しく生え変わるのを待つ必要がある
添付文書・インタビューフォーム記載事項の比較
※イトリゾールは「カプセル剤」
◆適応症
ラミシール:深在性皮膚真菌症、表在性皮膚真菌症(白癬症・カンジダ症)
イトリゾール:内臓真菌症、深在性皮膚真菌症、表在性皮膚真菌症(白癬症・カンジダ症)
◆警告の表記
ラミシール:肝機能障害・血球減少症に関する警告あり
イトリゾール:なし
◆血液検査の必要性
ラミシール:定期的に肝機能検査・血液検査を行うこと
イトリゾール:長期使用する場合は考慮
◆高齢者の用量調節
ラミシール:必要
イトリゾール:不要
◆併用禁忌の薬
ラミシール:なし
イトリゾール:
(CYP3A4に関するもの)
『オーラップ(一般名:ピモジド)』
『硫酸キニジン(一般名:キニジン)』
『ベプリコール(一般名:ベプリジル)』
『ハルシオン(一般名:トリアゾラム)』
『ベルソムラ(一般名:スボレキサント)』
『リポバス(一般名:シンバスタチン)』
『カルブロック(一般名:アゼルニジピン)』
『レザルタス(一般名:アゼルニジピン+ オルメサルタン)』
『バイミカード(一般名:ニソルジピン)』
『クリアミン(一般名:エルゴタミン)』
『ジヒデルゴット(一般名:ジヒドロエルゴタミン)』
『エルゴメトリン(一般名:エルゴメトリン)』
『メテルギン(一般名:メチルエルゴメトリン)』
『レビトラ(一般名:バルデナフィル)』
『レバチオ(一般名:シルデナフィル)』
『アドシルカ(一般名:タダラフィル)』
『セララ(一般名:エプレレノン)』
『ロナセン(一般名:ブロナンセリン)』
『スンベプラ(一般名:アスナプレビル)』
『ジメンシー配合錠(一般名:ダクラタスビル + アスナプレビル + ベクラブビル)』
『バニヘップ(一般名:バニプレビル)』
『イムブルビカ(一般名:イブルチニブ)』
『ブリリンタ(一般名:チカグレロル)』
『イグザレルト(一般名:リバーロキサバン)』※P糖蛋白も関与
『アデムパス(一般名:リオシグアト)』 ※P糖蛋白も関与
(P糖蛋白に関するもの)
『ラジレス(一般名:アリスキレン)』
『プラザキサ(一般名:ダビガトラン)』
◆爪白癬治療の用法
ラミシール:1日1回
イトリゾール:パルス療法(「1日2回を7日間、その後3週間休薬」のサイクルを3回繰り返す)
◆製造販売元
ラミシール:サンファーマ
イトリゾール:ヤンセンファーマ
+αの情報:爪白癬は、普通の外用薬では治りにくい
主に皮膚の水虫に使う「抗真菌薬」の塗り薬では、爪の組織に薬が浸透しにくく、十分な効果が得られません。
そのため、爪白癬には『ラミシール』や『イトリゾール』といった内服の「抗真菌薬」や、『クレナフィン(一般名:エフィナコナゾール)』や『ルコナック(一般名:ルリコナゾール)』といった爪白癬に適応のある塗り薬を使う必要があります。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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