『ジャディアンス』は他のSGLT-2阻害薬と何が違う?~上乗せできる心血管イベント抑制の効果
記事の内容
回答:既存の治療に上乗せできる、心血管イベント抑制効果
『ジャディアンス(一般名:エンパグリフロジン)』は、糖尿病治療に用いる「SGLT-2阻害薬」の一種です。
『ジャディアンス』は、心血管疾患(心筋梗塞や脳梗塞など)を起こしたことがある2型糖尿病患者に対し、その死亡率を低下させる効果が報告されています。
この研究では、ARBやACE阻害薬、スタチン、インスリンなどを使って、”既に適切な薬物治療を行っている人”が対象です。
つまり、標準的な治療に『ジャディアンス』を追加することによって、心血管イベント抑制効果を「上乗せ」できることを意味しています。
回答の根拠:既存の治療に上乗せできる、心血管イベント抑制効果
ARBやACE阻害薬、スタチン、インスリンを使った薬物治療には、心筋梗塞や脳卒中といった心血管イベントを抑制する効果が証明されています。
こうした標準治療に『ジャディアンス』を追加することで、心血管疾患による死亡を14%抑制されることが報告されています1)。
1) N Engl J Med.26;373(22):2117-28,(2015) PMID:26378978
また、NNT(Number Needed to Treat)も62.5と、およそ2年半ほどという比較的短い服薬期間で、これだけの大きな改善効果を示したことから、他の糖尿病治療薬と大きな差を示したと言えます。
+αの情報:他のSGLT-2阻害薬の可能性は
『ジャディアンス』の保険適用はまだ「2型糖尿病」のみで、心血管イベントに対する効能・効果は取得していません。
そもそも、SGLT-2阻害薬は2014年4月に登場してから日も浅く、『ジャディアンス』に至っては2015年2月に登場したところで、まだまだ使用実績も少ない新薬です。SGLT-2阻害薬はだいたい同じという認識が一般的で、各々についてどういった違いがあるのか、は明確になっていません。
そのため、こうした上乗せの治療効果が『ジャディアンス』だけのものなのか、あるいは他のSGLT-2阻害薬にも共通してあるものなのか、今後の臨床試験によって明らかにされることが期待されています。
薬剤師としてのアドバイス:SGLT-2阻害薬は、カロリー摂取が少ない人では使いにくい
SGLT-2阻害薬は、糖の吸収そのものをブロックしてしまう薬です。そのため、食事によって得られる糖が少ない場合、栄養が足りなくなってしまう恐れがあります。
こうした特徴を持つことから、例えば病気で十分な食事が摂れない日(シックデイ)には薬を休薬する、といった特殊な使い方をする必要があります。
また、日本では欧米と比べると肥満型の糖尿病患者も少なく、特に高齢者では低栄養も問題視されています。
このような背景から、今回の報告の利点だけにとらわれ、安易に処方を広げるべきではありません。あくまで保険適用を守りつつ、第一選択薬はガイドラインに従い、特に高齢者などに対しては慎重に使うべき薬であることは変わりません。
我々薬局薬剤師は、安易な処方で副作用が多発するといった事態を防ぎ、SGLT-2阻害薬が将来にわたって糖尿病治療に大きく貢献していけるような環境を整えていく必要があります。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
国内製薬メーカーの淘汰という視点は、これまであまり考えたことのないもので、なるほど確かにと痛感しました。今後、薬について学ぶ際にはこの視点も取り入れ、自分なりに日本の製薬環境についても考えていきたいと思います。
励ましのメッセージもありがとうございます、大変勉強になりました。
ご返信ありがとうございます。
このサイト全体を通して非常に公平性を感じられ、かつエビデンスに基づいた分かりやすく稀であると感じておりますので、期待を込めて敢えて失礼なコメントをさせて頂きました。
ご容赦ください。
EMPA-REG OUTCOMEは血糖降下剤における大変画期的なデータであると思います。
なのでFDAの指示に支配されないスーグラ等のドメスティックな薬剤も同様のトライアルを行わないと益々日本での薬剤開発軽視→国内メーカーの淘汰を危惧しております。
今のままではジャディアンス、フォシーガ、カナグル以外は選択肢に入れられません。
このサイトと管理人様の益々のご発展を期待申し上げます。
コメントありがとうございます。
ご指摘の通り、SGLT-2阻害薬のうち『ジャディアンス』のみが優れている、という印象を与えかねないため、少し加筆・修正致しました。
全ての最新情報を収集してまとめる、ということは不可能ですが、本稿を一つの情報として参考にして頂ければ幸いです。今後も、誤解を与えかねない表現については細心の注意をしていきたいと思います。
とても明快で素人でも理解しやすいと思います。
しかしながら、データが出ているもの、データを集めている途中のもの、データを取っていないもの、データが出なかったものを区別しないと、タイトルからあたかもジャディアンスだけが他と違うというイメージをつけやすいと感じられ公平性に欠けると思います。
>くぼちゃんさん
ご指摘ありがとうございます。
『SGLT-2』、ですね、失礼しました。非常に初歩的なミスがありました。
SGLT-2阻害薬ですね。直す所が多くてわっですね。薬についてまとめてあって、すごく参考になります。お世話になります。
毎回、ためになるお話しありがとうございますっ