「対人恐怖症」と「社会不安障害」、同じ他人の視線に対する不安障害の違いは?
記事の内容
回答:顔見知りの視線だけを気にするのか、見知らぬ第三者の視線も気にするのか
「対人恐怖症」は、主に友人・知人、会社の同僚やクラスメイトなど、顔見知りからの視線に対して強い不安を感じるものを言います。
「社会不安障害」では、特定の誰かに限らず、人前で話す、文字を書く、飲食をするといった、不特定の見知らぬ人たちからの視線に曝されることに対して強い不安を感じるものを言います。
どちらも「不安障害」の一種ですが、海外では「対人恐怖症」という定義は存在せず、日本特有の分類と言えます。そのため、治療方法においてはほとんど共通した方法がとられます。
回答の根拠:対人恐怖の定義
日本では、「対人恐怖症」を”他人と同席する場面で、不当に強い不安と精神的緊張が生じ、そのために他人に軽蔑されるのではないか、嫌がられるのではないかと案じ、対人関係から身を引こうとする神経症の一型”と定義しています1)。
1) 医学書院 「不安障害診療のすべて」 (2013)
これは”恥”という概念が強く影響した日本特有のものと考えられています。実際、海外では「社会不安障害」の一つの症状としてしか認識されていません。
そのため、治療方法も「社会不安障害」と共通しています。
詳しい回答:薬物治療と、認知行動療法
「対人恐怖症」を含め「社会不安障害」の薬物治療は、抗うつ薬であるSSRIが治療の主軸になります。「社会不安障害」に適応のあるSSRIは、以下の2種(デプロメールとルボックスは商品名が異なるだけの同じ薬)です。
※「社会不安障害」に適応のあるSSRI 2)
『デプロメール(一般名:フルボキサミン)』・・・適応症:うつ病・うつ状態、強迫性障害、社会不安障害
『ルボックス(一般名:フルボキサミン)』・・・適応症:うつ病・うつ状態、強迫性障害、社会不安障害
『パキシル(一般名:パロキセチン)』・・・適応症:うつ病・うつ状態、パニック障害、強迫性障害、社会不安障害、外傷後ストレス障害
2) デプロメール錠、ルボックス錠、パキシル錠 添付文書
また、不安が強い時には、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬を頓服で使用することもあります。
薬物療法と合わせて、認知行動療法が有効なケースも多々あります。特に、不安を無理に排除せず、あるがままの自分を受け入れる考え方を養う「森田療法」を積極的に導入している医療機関も増えています3)。
3) 東京慈恵会医科大学 森田療法センターWebサイト 「森田療法の考え方」
+αの情報:遺伝や、扁桃体の活動による影響
「社会不安障害」は、確かに”不安”を感じやすい性格が遺伝するケースなど、必ずしも遺伝が無関係とは言い切れません。性格とモノアミンに関連した遺伝型について報告する文献もあります4)。
4) J Neurosci.33(32):12940-53,(2013) PMID:23926250
しかし、遺伝だけでなく、生まれてからの生活環境にも大きく影響すると考えられ、特に好発する10代半ばでは家庭環境の要因が指摘されています。
また、「社会不安障害」では扁桃体の過活動が見られることもあり1)、扁桃体は恐怖や不安と強く関連していることも報告されている5)ことから、今後明確な原因が解明されることが期待されています。
5) Neuroreport.24(14):763-7,(2013) PMID:23820739
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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