『ランタスXR』と『ランタス』、同じインスリン注射の違いは?~濃度を高めると、なぜ吸収が穏やかになるのか
記事の内容
回答:『ランタスXR』は、『ランタス』の3倍の濃度で吸収が穏やか
『ランタスXR(一般名:インスリン グラルギン)』と『ランタス(一般名:インスリン グラルギン)』は、同じ有効成分のインスリン注射薬(持効型)です。
『ランタスXR』は、『ランタス』の有効成分の濃度を3倍にした製剤です。
濃度が高い『ランタスXR』を使うと1回の注射量が少なくなるため吸収が穏やかになり、血糖値をより安定してコントロールできるようになります。
※XRとは、持続的な溶解を意味するextended releaseのことです。
回答の根拠①:インスリン濃度の違い
『ランタスXR』と『ランタス』の有効成分はどちらも同じですが、『ランタスXR』は『ランタス』の3倍の濃度の製剤です。
※有効成分の濃度 1,2)
ランタスXR:1キット(1.5mL)中に450単位 →300単位/mL
ランタス :1キット(3mL)中に300単位 →100単位/mL
1) ランタスXR注ソロスター 添付文書
2) ランタス注ソロスター 添付文書
ただし、どちらの薬も通常1日4~80単位の範囲で使用する、という用法は変わりません。そのため、『ランタスXR』と『ランタス』では1回の注射量が変わります。
例)20単位を使用する場合の注射量
ランタスXR:66.7μL
ランタス :200μL
回答の根拠②:なぜ濃度が高くなると、吸収が穏やかになるのか?
『ランタスXR』や『ランタス』の有効成分は、等電点がpH7.4に設計されています。生体のpHでは溶解度が低くなるため、皮下注射すると、一旦沈殿物を形成します(等電点沈殿)。
その後、この沈殿物がゆっくりと溶けて血液中に移行するため、インスリンが徐々に作用する、という効果が得られます3)。
このとき、濃度が高い『ランタスXR』を使うと、皮下に注射する液量が少なくなるため、生成される沈殿物も小さくなります。小さな沈殿物では表面積が小さいため、溶解するスピードは遅くなります。
つまり、『ランタスXR』の特徴はインスリン濃度が3倍⇒1回の注射量が少なくて済む⇒皮下組織で生成される沈殿物が小さくなる⇒沈殿物の溶解速度が遅くなる⇒インスリンの吸収が穏やかになる⇒血糖値がより安定する、ということです。
これを、専門的には「無晶性沈殿物の単位当たりの表面積が小さくなり、投与部位からのインスリングラルギンの吸収がより穏やかになる」と表現します3)。
3) ランタスXR注ソロスター インタビューフォーム
実際に、濃度の高い『ランタスXR』を使った方が「インスリン」の血中濃度は安定し、より平坦な推移をすることが報告されています4)。
4) Diabetes Care.38(4):637-43,(2015) PMID:25150159
薬剤師としてのアドバイス①:身体本来のインスリン分泌と同じように補充する
『ランタス』などのインスリン注射は、足りない「インスリン」を補充する治療方法ですが、できるだけ身体本来のインスリン分泌と同じように補充する必要があります。
不必要なタイミングで効果が現れたり、必要以上に強く効果が現れたりした場合には、低血糖の副作用を起こしてしまうからです。
そのため、インスリン注射には効き目の速さ・長さが様々な薬があり、その人の生活リズムや食事のタイミングに合わせて使い分ける必要があります。
『ランタス』は効き目が続く「持効型」に分類されるインスリン注射で、身体の基礎的なインスリン分泌を補うための薬です。24時間安定した効果が得られることが重要なため、より吸収が穏やかな『ランタスXR』には、安定した効果と低血糖の少なさが期待されています。
薬剤師としてのアドバイス②:インスリンは最終手段ではない
糖尿病が悪化したら「インスリン」を打たなければいけなくなる、と考えている人は少なくありません。「インスリン」を脅しのように使っている医療従事者も居ます。
しかし、現在の糖尿病治療では、食事制限や運動療法を緩めに行いながら、初期のうちから『ランタス』などの「インスリン」製剤を使い、負担の少ない治療を続ける、という選択肢もあります。そのため、必ずしも「最終手段」というわけではありません。
ポイントのまとめ
1. 『ランタスXR』は、『ランタス』の濃度を3倍にしたもの
2. 『ランタスXR』は、『ランタス』よりも吸収が穏やかで、より安定した血糖コントロールができる
3. インスリン注射は、身体本来のインスリン分泌と同じになるように使う
添付文書、インタビューフォーム記載内容の比較
◆有効成分
ランタスXR:インスリン グラルギン
ランタス:インスリン グラルギン
◆有効成分の濃度
ランタスXR:1キット(1.5mL)中に450単位 →300単位/mL
ランタス :1キット(3mL)中に300単位 →100単位/mL
◆適応症
ランタスXR:インスリン療法が適応となる糖尿病
ランタス:インスリン療法が適応となる糖尿病
◆用法
ランタスXR:1日1回、朝食前か就寝前
ランタス:1日1回、朝食前か就寝前
◆通常の用量
ランタスXR:初期は4~20単位、維持量は4~80単位
ランタス:初期は4~20単位、維持量は4~80単位
◆剤型の種類
ランタスXR:注ソロスター
ランタス:注ソロスター、注射、注カート
◆製造販売元
ランタスXR:サノフィ
ランタス:サノフィ
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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