『ハルナール』・『ユリーフ』・『フリバス』、同じ前立腺肥大の薬の違いは?~α1Aとα1Dの分布差と効果・副作用
記事の内容
回答:作用する受容体のサブタイプが違う
『ハルナール(一般名:タムスロシン)』・『ユリーフ(一般名:シロドシン)』・『フリバス(一般名:ナフトピジル)』は、「前立腺肥大症に伴う排尿障害」の治療に使う薬です。
いずれも前立腺・尿道の「アドレナリンα1受容体」をブロックすることで尿道周囲の平滑筋を弛緩させ、尿道の圧迫を和らげて排尿障害を解消する効果があります。
『ハルナール』は、α1受容体全体をブロックします。
『ユリーフ』は、α1受容体のうち、α1A受容体を選択的にブロックします。
『フリバス』は、α1受容体のうち、α1D受容体を選択的にブロックします。
この「α1A受容体」と「α1D受容体」の分布には体質や臓器によって差があるため、症状や副作用のリスクからその人に最も合った薬を選びます。
回答の根拠①:各受容体への作用強度の違い
排尿に関わる前立腺と膀胱の「α1受容体」には、「α1A受容体」と「α1D受容体」という2つのサブタイプがあります。
『ハルナール』・『ユリーフ』・『フリバス』は、それぞれこのサブタイプに対する親和性(作用の強さ)が異なります。
※各薬の受容体への親和性の差 1)
ハルナール・・・「α1A:α1D」= 3:1
ユリーフ・・・・「α1A:α1D」=55:1
フリバス・・・・「α1A:α1D」= 1:3
1) 日本泌尿器科学会 「前立腺肥大症診療ガイドライン (2011)」
そのため、前立腺や膀胱などに分布する受容体の差によって、効き目や副作用に違いが生じます。
回答の根拠②:「前立腺」での分布と、効果の個人差
「前立腺」での「α1受容体」の分布には個人差があり、以下の3パターンに分類することができます2,3)。
※前立腺での「α1受容体」の分布
① α1A受容体とα1D受容体が均等に分布する人
② α1A受容体が多い人
③ α1D受容体が多い人
2) Prostate.66(7):761-7,(2006) PMID:16425183
3) 日本医事新報 No.4613,(2012)
そのため、それぞれ最も多い受容体をブロックすることによって、最大の治療効果を得ることができます。
実際にどれか一つの薬を飲んでみて効果がイマイチだった場合でも、別の薬に変更することで大きな効果を得られる可能性もあります。
回答の根拠③:「膀胱」での分布と、夜間頻尿などの膀胱刺激症状
「膀胱」では、「α1D受容体」が多く存在しています1)。これは個人差ではなく、全ての人に共通する特徴です。
そのため、夜間頻尿などの膀胱刺激症状が主であれば、「α1D受容体」を遮断する『フリバス』が適しています。
回答の根拠④:「精嚢」での分布と、副作用の差
「精嚢」にも「α1A受容体」があります。そのため「α1A受容体」を遮断すると、射精障害などの副作用を起こしやすくなります。
そのため射精障害の副作用は、「α1A受容体」への作用が強い『ユリーフ』で多い傾向があります1)。
薬剤師としてのアドバイス:前立腺肥大の人は、市販の薬を安易に使わない
前立腺肥大の人が「抗コリン作用」を持つ薬を使うと、症状が悪化することがあります。この「抗コリン作用」を持つ薬というのは、世の中に非常にたくさんあります。
特に、古いタイプのアレルギーの薬は市販の風邪薬などにもよく入っているため、安易に薬を選ぶと思わぬ副作用が出る恐れがあります。
そのため、『ハルナール』や『ユリーフ』・『フリバス』などを飲んでいる人は、市販の薬を買う場合でも必ず「お薬手帳」を薬剤師に見せるか、持病・飲んでいる薬を伝えた上で、合った薬を選ぶようにしてください。
ポイントのまとめ
1. 『ハルナール』は「α1Aとα1D」、『ユリーフ』は「α1A」、『フリバス』は「α1D」へ、主に作用する
2. 前立腺のα1受容体の分布には個人差があるため、薬の効き方が異なる
3. 前立腺肥大の人は、市販の薬を買う時に必ず薬剤師に相談する
添付文書、インタビューフォーム記載事項の比較
◆適応症
ハルナール:前立腺肥大症に伴う排尿障害
ユリーフ:前立腺肥大症に伴う排尿障害
フリバス:前立腺肥大症に伴う排尿障害
◆ガイドラインでの推奨度
ハルナール:A
ユリーフ:A
フリバス:A
◆用法
ハルナール:1日1回、食後
ユリーフ:1日2回、朝夕食後
フリバス:1日1回、食後
◆発生頻度の高い副作用
ハルナール:起立性低血圧によるめまい(2.2%)
ユリーフ:射精障害(17.2%)
フリバス:起立性低血圧によるめまい・ふらつき・立ちくらみ(1.57%)
◆剤型の種類
ハルナール:D錠(0.1mg、0.2mg)
ユリーフ:錠・OD錠(2mg、4mg)
フリバス:錠・OD錠(25mg、50mg、75mg)
◆製造販売元
ハルナール:アステラス
ユリーフ:キッセイ薬品
フリバス:旭化成ファーマ
+αの情報:軽症例には、植物エキスの薬も
症状が軽症であれば、副作用の少ない『エビプロスタット』という薬を使うこともあります。
この薬は植物エキスを配合した薬で、前立腺肥大症で生じる酸化ストレスを軽減し、排尿困難や頻尿といった尿トラブルの症状を緩和する効果があります4)。
4) エビプロスタット配合錠 添付文書
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
薬剤と受容体の差異に伴う効能についてよく解りました。