『ノルバデックス』と『アリミデックス』、同じ乳がん治療薬の違いは?~閉経の前後で異なる治療と、併用の問題点
記事の内容
回答:閉経の前は『ノルバデックス』、閉経の後は『アリミデックス』が主流
『ノルバデックス(一般名:タモキシフェン)』と『アリミデックス(一般名:アナストロゾール)』は、どちらも乳がんの治療薬です。
『ノルバデックス』は、閉経前と閉経後、両方の乳がんに効果があります。
『アリミデックス』は、閉経後の乳がんにだけ効果があります。
特に、閉経後の乳がんには『アリミデックス』の方がよく効くことから、閉経前は『ノルバデックス』、閉経後は『アリミデックス』を使うのが一般的です。
回答の根拠①:「エストロゲン」の分泌方法は、閉経の前後で変わる
乳がんには、女性ホルモンである「エストロゲン」が深く関与しています。
閉経前は、卵巣から「エストロゲン」が分泌されています。
閉経後は、この卵巣からの分泌が減る代わりに、副腎から分泌されている「アンドロゲン(男性ホルモン)」を、「アロマターゼ」という酵素で「エストロゲン」に変換しています。
『ノルバデックス』は、「エストロゲン」の受容体を阻害します1)。そのため、閉経前でも後でも「エストロゲン」の作用を減らすことができます。
『アリミデックス』は、「アンドロゲン」を「エストロゲン」に変換する「アロマターゼ」という酵素を阻害します2)。そのため、閉経後の「エストロゲン」しか減らすことができません。
1) ノルバデックス錠 添付文書
2) アリミデックス錠 添付文書
『アリミデックス』の適応が、閉経後乳癌に限定されているのは、このためです。
回答の根拠②:閉経後の乳がんには、『アリミデックス』の方が効果的
閉経後の乳がんには、『ノルバデックス』と『アリミデックス』のどちらも効果があります。
アメリカの臨床腫瘍学会が2014年に改訂したガイドラインで推奨している4種のレジメン(治療方法)のうち、3種が『ノルバデックス』から、1種が『アリミデックス』から開始するものになっています。
しかし、閉経後の乳がんに対しては『アリミデックス』の方が再発を抑える効果が高く、またその抑制効果が薬の服用を終えてからも長期に渡って続くことが報告されています3)。
さらに、『アリミデックス』で治療した方が死亡率を15%程度減らせるとする報告もあります4)。
3) Lancet.359(9324):2131-9,(2002) PMID:12090977 ※ATAC試験
4) Lancet.386(10001):1341-52,(2015) PMID:26211827
このことから、閉経後の乳がんには『アリミデックス』を使うことが多くなってきています。
薬剤師としてのアドバイス:ほてり・のぼせは服装で、血栓は水分とこまめな運動で対応を
『ノルバデックス』や『アリミデックス』といった薬を飲むと、体内の「エストロゲン」の作用が弱まるため、「ほてり」や「のぼせ」を感じることがあります。
通常、こうした副作用は薬を飲み続けているうちに治まっていくため、気温や室温によって簡単に調節できる服装を心がける、首元の汗はスカーフで対応するなど、服装を工夫しておくことをお勧めします。
また、薬で血栓ができやすくなる傾向になるため、普段以上に水分補給を心がけるとともに、飛行機や列車などで同じ姿勢を続ける場合には、こまめに足を動かす運動をするようにしてください。
ポイントのまとめ
1. 『ノルバデックス』は、「エストロゲン」の作用を阻害するため、閉経の前後で使える
2. 『アリミデックス』は、「アンドロゲン」から「エストロゲン」への変換を阻害するため、閉経後に使う
3. 閉経後の乳がんには、『アリミデックス』の方が良いとする報告が増えている
添付文書、インタビューフォーム記載内容の比較
◆薬理作用の種類
ノルバデックス:SERM(選択的エストロゲン受容体モジュレーター)
アリミデックス:アロマターゼ阻害薬
◆適応症
ノルバデックス:乳がん
アリミデックス:閉経後乳がん
◆用法
ノルバデックス:1日1~2回(※20mg錠は1日1回)
アリミデックス:1日1回
◆錠剤の種類
ノルバデックス:錠(10mg、20mg)
アリミデックス:錠(1mg)
◆製造販売元
ノルバデックス:アストラゼネカ
アリミデックス:アストラゼネカ
+αの情報:『アリミデックス』を服用中に、骨粗鬆症治療の「SERM」を使わない
『ノルバデックス』と『アリミデックス』を併用すると、副作用が増え、『アリミデックス』の効果が弱まることが報告されています3)。
『ノルバデックス』と同じ作用の「SERM」には、骨粗鬆症に使う『ビビアント(一般名:バゼドキシフェン)』や『エビスタ(一般名:ラロキシフェン)』があります。これらの薬でも、同じような効果減弱を起こす恐れがあります。
※SERM:選択的エストロゲン受容体モジュレーターの薬
『ノルバデックス(一般名:タモキシフェン)』
『ビビアント(一般名:バゼドキシフェン)』
『エビスタ(一般名:ラロキシフェン)』
このことから、『アリミデックス』で治療中の乳がん患者の場合は、骨粗鬆症の治療に『ビビアント』や『エビスタ』などの「SERM」を使わないよう注意喚起されています5,6)。
5) 日本乳癌学会「乳癌診療ガイドライン」 薬物療法CQ42
6) NCCN腫瘍学臨床診療ガイドライン「乳癌 第3版」
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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