『クラリシッド』などの「マクロライド系」抗生物質を、何ヶ月も続けて処方されているのは何故?~少量療法と耐性菌
記事の内容
回答:長期間、少量で服用する方法がある
びまん性汎細気管支炎や慢性副鼻腔炎に対して、『クラリシッド(一般名:クラリスロマイシン)』や『クラリス』、『エリスロシン(一般名:エリスロマイシン)』などの14員環マクロライド系抗生物質を少量で長期投与する治療方法があります。
このときの治療効果は抗生物質としての抗菌作用によるものではなく、炎症を抑えるなどの別の作用によるものであると考えられています。
本来、短期間で使用すべき抗生物質を、長期に渡って継続使用していると、「耐性菌」が生まれてしまう等の重大な問題が起こります。そのため、この治療方法に対しては疑問を呈する医師もおられます。
回答の根拠①:びまん性汎細気管支炎への効果
「びまん性汎細気管支炎(Diffuse Panbronchiolitis:DPB)」は、日本人に多い難治性の気管支炎です。気管支のほか、周辺の様々な呼吸器に慢性的な炎症を起こす病気です。
「びまん性」とは、病気のある場所がはっきりと限定できず、組織全体にまんべんなく病変が広がっている病態のことです。
この「びまん性汎細気管支炎」に対して、『エリスロシン』などの14員環マクロライド系抗生物質を少量かつ長期で投与すると、大きな改善効果が得られることが知られています1)。
1) 日胸疾会誌.22(増):254,(1984)
※この報告では、『エリスロシン』を1日600mg(通常は800~1200mg)、6ヶ月以上投与しています。
回答の根拠②:慢性副鼻腔炎への効果
慢性副鼻腔炎に対し、『クラリシッド』や『エリスロシン』などの14員環マクロライド系抗生物質を少量かつ長期で投与すると、改善効果が得られることが知られています3)。
特に『クラリス』や『クラリシッド』といった「クラリスロマイシン」製剤は、『エリスロシン』よりも気管支部位への移行率が高く3)、また1日1回の投与で良いことから広く採用されています。
3) 耳鼻咽喉科展望.36(5):657-662,(1993)
回答の根拠③:抗菌作用以外の効果
マクロライド系の薬は本来、細菌のタンパク質合成を阻害することによって細菌の増殖を抑える「抗生物質」です。少量で使用しても「抗生物質」としての作用は発揮できません(最小発育阻止濃度(MIC)を下回る濃度では、抗菌力がない)。
そのため、「びまん性汎細気管支炎」や「慢性副鼻腔炎」に対する治療効果は、抗菌作用によるものではなく、全く別の作用によるものであると考えられています。
こうした改善効果がなぜ現れるのか、まだ明確には解明されていませんが、14員環のマクロライド系抗生物質には炎症を抑える効果があるのではないかと考えられ、その仮説を支持する研究報告が増えてきています5)。
5) Am J Respir Med.1(2):119-31,(2002) PMID:14720066
回答の根拠④:感染制御の観点から是非を問う声も
「びまん性汎細気管支炎」に対しては極めて高い治療効果を得られる上、他に有効な治療手段がないために現在では広く推奨される治療方法として確立されています。
一方で「慢性副鼻腔炎」に対しては、抗生物質の長期投与は避け、抗アレルギー薬や去痰薬、鼻洗浄や手術などで治療するべきと訴える声も多いのが現状です。
その最も大きな要因は、抗生物質を少量で長期使用する、という「耐性菌」を非常に生み出しやすい使い方をする点です。安易な使い方をすれば「耐性菌」を次々に生み出し、まき散らす結果につながってしまいます。
こうした観点から、抗生物質の長期投与に関しては課題が残ると指摘する文献もあります6)。
6) Rhinology.50(1):45-55,(2012) PMID:22469605
薬剤師としてのアドバイス:医師・薬剤師に直接相談を
抗生物質を長期で使用する、といった治療方法に疑問や不安がある場合や、こうした特殊な治療方法を受けたい場合には、医師に直接相談し、メリット・デメリットについての説明を受けるようにしましょう。
また、現在使っている薬に対して疑問や不安がある場合には、ぜひ薬剤師も頼ってください。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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