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似た薬の違い 高血圧

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「ARB」と「ACE阻害薬」、同じ高血圧の治療薬の違いは?~効果と空咳の副作用、使用実績の差

回答:空咳の副作用が無い「ARB」と、使用実績が豊富で安価な「ACE阻害薬」

 「ARB」と「ACE阻害薬」は、どちらも高血圧治療の第一選択薬として広く使われている薬です。血圧を下げるメカニズムは異なりますが、得られる効果は基本的に同じです。

 「ARB」は、「ACE阻害薬」でよく問題になる「空咳」の副作用が起こらないため、治療を続けやすいという特徴があります。
 一方、「ACE阻害薬」の方が古い薬のため、心不全や慢性腎臓病などに対しても使用実績が豊富で、値段も安い傾向にあります。

 そのため、現在は副作用の少ない「ARB」を使うことが多いですが、持病や経済状況などの事情から「ACE阻害薬」を選ぶこともあります。

 

※正式名称
ARB:アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬:AngiotensinⅡ Receptor Blocker
ACE阻害薬:アンジオテンシン変換酵素阻害薬:Angiotensin Converting Enzyme Inhibitors

 

回答の根拠①:治療効果の違い

 高血圧を治療する目的は、単に血圧を下げることではなく、高血圧が原因で起こる心筋梗塞や脳卒中などのトラブルを起こすのを防ぐことです。こうしたトラブルの予防効果について、「ARB」と「ACE阻害薬」で大きな違いはありません1,2)。
 そのため、どちらも高血圧治療の第一選択薬として使われ、ガイドラインでも「ARBまたはACE阻害薬」と一括りに扱われています3)。

1) Cochrane Database Syst Rev . 2014 Aug 22;2014(8):CD009096. PMID: 25148386
2) Hypertension.78(3):591-603,(2021) PMID:34304580
3) 日本高血圧学会 「高血圧治療ガイドライン (2019)」

 

作用メカニズムの違い~レニン・アンジオテンシン系

 血圧が下がり過ぎると、脳に血液が届かず死んでしまいます。そのため、ヒトには血圧を維持する「昇圧システム」が備わっていますが、その一つが「レニン・アンジオテンシン系」と呼ばれるシステムです。「ARB」と「ACE阻害薬」は、この「レニン・アンジオテンシン系」の別々の場所に作用します。
ARBとACE阻害薬~RAS
 「ARB」は、「アンジオテンシンⅡ」が「アンジオテンシンⅡ1受容体(AT1受容体)」に結合することを阻害します。
 「ACE阻害薬」は、「アンジオテンシンⅠ」を「アンジオテンシンⅡ」に変換する酵素「アンジオテンシン変換酵素(ACE)」を阻害します。
 どちらの薬も、「レニン・アンジオテンシン系」のなかで血圧の上昇・維持に関わる「アンジオテンシンⅡ」の作用を弱めることで、血圧を下げる効果を発揮します。

 

回答の根拠②:治療の続けやすさ~「空咳」の副作用

 「ACE阻害薬」を使い始めると、5~35%ほどの人に痰のからまない咳(空咳)の副作用が現れることがあります4)。特に生命に関わるような副作用ではりませんが、「ACE阻害薬」での治療を中断してしまう人の70%近くが、この咳の副作用を原因に挙げている5)ほど、厄介なものです。

 一方で「ARB」は、この「空咳」を含めて副作用が比較的少なく6)、「ACE阻害薬」に比べると治療を続けやすい1)のが特徴です。「ACE阻害薬」では咳が出て治療を挫折してしまった人でも、「ARB」に切り替えれば治療を続けられるという報告もあります5)。

 そのため、「ACE阻害薬」では副作用で治療を続けられなかった人や、あるいは最初からこうした副作用を避けたいときに、「ARB」が選ばれる傾向があります。

4) Chest.129(1 Suppl):169S-173S,(2006) PMID:16428706
5) Lancet.362(9386):772-6,(2003) PMID:13678870
6) BMJ.326(7404):1427,(2003) PMID:12829555

 

「空咳」の副作用が「ACE阻害薬」でだけ起こる理由

 「空咳」の副作用が「ACE阻害薬」だけで現れるのには、作用メカニズムの違いが関係しています。
 「ACE阻害薬」には、「ACE:アンジオテンシン変換酵素」だけでなく、「ブラジキニン」の分解を阻害する作用もあります。そのため、「ACE阻害薬」を使うと「ブラジキニン」が分解されずに身体に溜まりやすくなりますが、これが気道を刺激して喉の違和感を引き起こします7)。これによって、咳が出るようになります。

ACE阻害薬と空咳~ブラジキニン

 「空咳」は、薬を止めれば基本的に1~4週間ほどで治まりますが、落ち着いた後に改めて「ACE阻害薬」を使うと今度は「空咳」が全く出ない、ということもあります4)。

 なおこの咳の副作用は、身体機能の衰えた高齢者の「誤嚥性肺炎」を防ぐ目的で利用されることもあります8)。

7) 総合臨床.45(8):1946,(1996)
8) Lancet.357(9257):720-1,(2001) PMID:11247586

 

回答の根拠③:使用実績の差

 「ARB」に比べると「ACE阻害薬」の方が古くから使われているぶん、使用実績が豊富です。そのため、「ACE阻害薬」の方が優先的に選ばれることもあります。
 たとえば、心不全の治療にはどちらの薬も使われます9)が、「ARB」は「ACE阻害薬」からの切り替えが原則とされています10)。また、慢性腎臓病の患者では「ACE阻害薬」を選んだ方が死亡率を減らせる11)など、やや優れている可能性があり、ガイドラインでも少しだけ高めの評価をされています12)。

9) 日本循環器学会 「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2021)」
10) ブロプレス錠 添付文書
11) Am J Kidney Dis.67(5):728-41,(2016) PMID:26597926
12) 日本腎臓学会 「CKD診療ガイドライン(2018)」

 

薬剤師としてのアドバイス:空咳の心配がなければ、安い「ACE阻害薬」も選択肢

 一般的に、新しい薬の方が値段は高くなります。「ARB」と「ACE阻害薬」を比べてみても、新しい「ARB」の方がやや高価です。

 高血圧の治療などは長く続ける必要があるため、1錠の値段はわずかな差であっても、年単位で考えると意外と経済的な負担には差が出てきます。そのため、「空咳」が問題にならない場合には、安い「ACE阻害薬」で治療をする、ということも良い選択になります。自分の身体だけでなく、お財布事情にもあった治療が続けられるよう、医師・薬剤師と相談することをお勧めします。

 

ポイントのまとめ

1. どちらも高血圧治療の第一選択薬で、効果に大きな違いはない
2. 「ARB」は、「空咳」の副作用が無く治療を続けやすい
3. 「ACE阻害薬」は、心不全や慢性腎臓病などに対する使用実績が豊富

 

+αの情報①:「ARB」と「ACE阻害薬」の併用は、基本的にしない

 「ARB」と「ACE阻害薬」を併用した場合、有効性は変わらず、腎障害の副作用などが増加することが報告されています13,14)。 そのため、「ARB」と「ACE阻害薬」は基本的にどちらか一方を選ぶもので、併用は推奨されていません。

13) Lancet.372(9638):547-53,(2008) PMID:18707986
14) N Engl J Med.358(15):1547-59,(2008) PMID:18378520

 

+αの情報②:共通の弱点「アルドステロン・ブレイクスルー」

 「ARB」や「ACE阻害薬」によって、一旦は血圧が下がったものの、しばらくすると再び血圧が高くなってくることがあります。これは、薬によって「レニン・アンジオテンシン系」を阻害しているにもかかわらず、別の経路で最終産物である「アルドステロン」が産生(アルドステロン・ブレイクスルー)され、これによって血圧が上昇することが原因と考えられています。
 この現象は、「アルドステロン」を直接ブロックする『セララ(一般名:エプレレノン)』などの薬で阻止することができます15)。

15) Curr Hypertens Rep.18(5):34,(2016) PMID:27072827

 

~注意事項~

◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。

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