吐き気に『ナウゼリン』を処方してもらっていたが、「つわり(妊娠悪阻)」だった。胎児への影響は?~妊娠中は禁忌と書かれた薬の安全性
記事の内容
回答:気付いた時点で相談する、という対応でOK
吐き気止めの『ナウゼリン(一般名:ドンペリドン)』の添付文書には、妊娠中の使用は「禁忌」と書かれていますが、実際は妊娠初期に少し服用していたからといって、すぐさま胎児に悪影響を及ぼすような薬ではありません。
妊娠に気付かず服用してしまったケースはよく起こりますが、「なぜ吐き気くらいで薬を飲んでしまったのだろうか」、「今回の妊娠は諦めなければならないのか」と思い悩む必要はありません。妊娠が判明した時点で主治医へ連絡し、その後の対応を考えることで十分です。
回答の根拠:『ナウゼリン』の実際のリスク・安全性評価
『ナウゼリン』は、添付文書上、妊婦または妊娠している可能性のある婦人に対する投与は「禁忌」に指定されています1)。これは、動物実験(ラット)の段階で200mg/kgという高用量で使用した場合に、骨格や内臓に異常が生じるという報告があるからです2)。
妊娠に気付かず、原因不明の吐き気に『ナウゼリン』を使っていたが、実は後になって妊娠が判明し、吐き気は「つわり(妊娠悪阻)」の症状だったことがわかった、という事例はよく起こります。その際、この添付文書の「禁忌」という情報を見て強い不安を感じてしまう方がおられます。
1) ナウゼリン錠 インタビューフォーム
2) 薬理と治療.8(11):4045-60,(1980)
しかし、実際には妊娠初期に『ナウゼリン』を使用した場合でも胎児に悪影響を及ぼさなかったことが、小規模ながら臨床試験でも確認されている3)ほか、日本産婦人科診療ガイドラインでも、「添付文書上いわゆる禁忌の医薬品のうち、妊娠初期に服用・投与された場合、臨床的に有意な胎児への影響はないと判断して良い医薬品」のリストに挙げられています4)。
3) J Obstet Gynaecol.33(2):160-2,(2013) PMID:23445139
4) 日本産科婦人科学会「産婦人科診療ガイドライン-産科編2017」
このことから、妊娠初期にうっかり『ナウゼリン』を服用してしまったとしても基本的に問題は無いと言えます。薬を使った自分を責めたり、今回の妊娠を諦めたりする必要はありません。
薬剤師としてのアドバイス:「禁忌」という言葉の印象だけで判断しない
医薬品の添付文書は、医師や薬剤師が参照する最も基本的な資料ですが、その表記・表現は絶対的で唯一無二の判断材料というわけではありません。そのため、医師や薬剤師は添付文書の「禁忌」という言葉の印象だけで薬を選ぶことはせず、妊娠中の使用についても適宜ガイドラインや疫学調査の報告、各種安全性評価(例:オーストラリア基準)などを参照し、総合的にリスクとメリットを天秤にかけて判断します。
インターネットを使えば、誰でも簡単に医薬品の添付文書を読むことはできますが、そこに書いてある言葉の印象だけで判断しないよう注意してください。
特に、自己判断での薬の中断は、母体の健康を損ない、かえって胎児に大きな悪影響を与えてしまう可能性もあります。薬を服用中に妊娠が判明した場合は、その時点で必ず医師・薬剤師に改めて相談するようにしてください。
ポイントのまとめ
1. 『ナウゼリン』は、妊娠初期にうっかり服用してしまうことがあり、添付文書の「禁忌」を見て驚く人も多い
2. 『ナウゼリン』は、産科のガイドラインでも「問題ないと判断して良い」とされている
3. 薬を服用中に妊娠が判明した際、その薬を自己判断で中断しない
+αの情報①:『プリンペラン』の安全性評価
同じ吐き気止めでも、『プリンペラン(一般名:メトクロプラミド)』は、妊娠初期に使用しても奇形や流産・低体重出生などのリスクを増やさないという疫学調査が多く報告されています5,6,7)。そのため、妊娠の可能性がある場合は予め『プリンペラン』を選んでおく方が無難です。
5) Am J Perinatol.19(6):311-6,(2002) PMID:12357422
6) Br J Clin Pharmacol.49(3):264-8,(2000) PMID:10718782
7) N Engl J Med.10;343(6):445-6,(2000) PMID:10939907
ただし、授乳中は『ナウゼリン』の方が安全性が高く評価されていることにも注意が必要です。
+αの情報②:「ビタミンB6」の効果
妊娠悪阻の吐き気に対しては、米国産科婦人科学会(American Congress of Obstetrics and Gynecology (ACOG))が「ビタミンB6」の使用を推奨しています8)。吐き気止めの薬を使わない方法として、良い選択肢になります。
8) ACOG:Nausea and Vomiting of Pregnancy.FAQ126 (2015)
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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