『ビオフェルミン』と『ビオフェルミンR』、同じ整腸剤の違いは?~耐性と抗生物質との併用
記事の内容
回答:『ビオフェルミンR』は抗生物質と一緒に使うための薬
『ビオフェルミン』と『ビオフェルミンR』は、どちらも腸に善玉菌(主に乳酸菌)を届け、腸内環境を整える整腸剤です。
『ビオフェルミン』は、普通の乳酸菌の薬です。
『ビオフェルミンR』は、抗生物質で死滅しない「耐性」を持った乳酸菌の薬です。
そのため、抗生物質による下痢・便秘といった副作用の防止には、『ビオフェルミンR』を使う必要があります(※『ビオフェルミンR』の「R」は、「耐性:Resistance」の意味です)。
ただし、全ての抗生物質に対して「耐性」を持っているわけではなく、保険適用上も併用できる抗生物質は限られていることに注意が必要です。
回答の根拠①:抗生物質が効かない「耐性」を利用した『ビオフェルミンR』
『ビオフェルミン』に含まれる乳酸菌などの善玉菌も「細菌」の一種です。そのため、細菌を退治する抗生物質によって死滅してしまいます。
つまり、抗生物質を飲んでいる時に普通の『ビオフェルミン』を飲んでも、薬の菌も一緒に退治されてしまうため、整腸剤としての効果は期待できません。
一方、『ビオフェルミンR』の菌は抗生物質に対する「耐性」を持っているため、抗生物質と一緒になっても増殖・活動を続けることができます1)。
1) ビオフェルミンR錠 添付文書
そのため、抗生物質を使って治療している(化学療法)時によく起こる下痢や軟便・便秘といった副作用を予防・改善するために使われます。
「ビオフェルミンR」の耐性は、抗生物質の効果に影響しない
細菌が獲得する「耐性」には、抗生物質の効果を無くしてしまうタイプのものもありますが、『ビオフェルミンR』が持つ耐性は別のタイプのもので、抗生物質の効果を弱めることはありません1)。
回答の根拠②:「耐性」を持つ抗生物質の種類
抗生物質は感染症の原因となっている細菌の種類によって明確に使い分ける必要があります。つまり、抗生物質には様々な種類のものがあり、作用や効果も異なります。
そのため、「耐性」がある『ビオフェルミンR』と言えど、全ての抗生物質に対して「耐性」があるわけではなく、限られた種類の抗生物質に対しての「耐性」しか持っていません。『ビオフェルミンR』は、この限られた抗生物質と一緒に使う方法しか、保険適用がありません2)。
※『ビオフェルミンR』が「耐性」を持っている抗生物質 2)
ペニシリン系
セファロスポリン系
アミノグリコシド系
マクロライド系
テトラサイクリン系
ナリジクス酸
2) ビオフェルミンR錠 インタビューフォーム
他の抗生物質に対しては効果が無いのか?
『ビオフェルミンR』は、「ニューキノロン系」の抗生物質である『クラビット(一般名:レボフロキサシン)』に対しては、理論上「耐性」がありません。
そのため、『クラビット』と一緒に『ビオフェルミンR』を飲んでも、整腸剤としての効果が得られないため、併用を避けるか、時間差で飲むなどの工夫をする必要があります3)。
一方で、治療を行う上で影響が出るほど効果が弱まるといった報告も今のところなく、併用に問題はないとする見解もあります4)。
3) 病院薬学.19(4):295-302,(1993)
4) 第一三共(株) クラビット錠 製品情報
理論上の「耐性」にこだわっていると、新しく登場した抗生物質に対応できないため、ある程度は柔軟に対応する必要がありますが、保険適用外になることには注意が必要です。
薬剤師としてのアドバイス:薬は、ちょっとした名前の差で大きく異なる
『ビオフェルミン』は末尾に「R」がついているかどうかで、保険適用も異なる全く別の薬です。
同様に、ステロイド外用剤の「リンデロン」は、DPやVGなど末尾についたアルファベットによって有効成分や強さが全く異なります。
このように、薬はちょっとした名前の差でも内容は大きく異なるため、似た名前だからといって「同じだろう」と思って使うと、効果が無かったり、思わぬ副作用を起こしたりする原因になります。
薬の名前が少しでも違う場合は安易に使わず、必ず薬剤師に確認するようにしてください。
ポイントのまとめ
1. 『ビオフェルミン』と『ビオフェルミンR』は、腸に善玉菌(乳酸菌)を届け、腸内環境を整える整腸剤
2. 『ビオフェルミンR』は、一部の抗生物質に対して「耐性」を持ち、下痢・便秘などの予防に使う
3. 薬に対しては、「同じような名前だし、似たような効果だろう」という考え方は、危険
添付文書・インタビューフォーム記載事項の比較
◆薬効分類名
ビオフェルミン:ビフィズス菌整腸剤
ビオフェルミンR:耐性乳酸菌整腸剤
◆使われている菌種
ビオフェルミン:Bifidobacterium bifidum
ビオフェルミンR:Streptococcus faecalis
◆効能・効果
ビオフェルミン:腸内菌叢の異常による諸症状の改善
ビオフェルミンR:抗生物質・化学療法剤投与時の腸内菌叢の異常による諸症状の改善
◆用法
ビオフェルミン:1日3回
ビオフェルミンR:1日3回
◆剤型の種類
ビオフェルミン:錠
ビオフェルミンR:錠、散
※ビオフェルミンの「配合散」は、有効成分が異なる別の薬であることに注意
◆製造販売元
ビオフェルミン:ビオフェルミン製薬
ビオフェルミンR:ビオフェルミン製薬
+αの情報:病原菌が「耐性」を持つと、治療が難しくなる
抗生物質が効かない「耐性」を持つことができるのは、『ビオフェルミンR』のようにヒトにとって有益な乳酸菌だけではありません。
感染症の原因となる病原菌が「耐性」を持ってしまうと、抗生物質が効かないために治療が困難になります。
特に、最近は様々な種類の抗生物質に対する「耐性」を持ち、ごく限られた抗生物質でしか治療できないような「多剤耐性菌」、俗に言う「スーパー耐性菌」が発生し、問題となっています。
こうした治療が難しい「耐性菌」を生まないためにも、抗生物質を処方された際にはきちんと最後まで飲み切り、残さないようにしてください。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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