■サイト内検索


スポンサードリンク

薬機法 薬の誤解

/

「劇薬」と赤文字で書いてある薬は、普通の薬より効果も副作用も強い薬?

回答:そうとは限らない

 「劇薬」には「効果も副作用も強い」というイメージがありますが、医薬品の「劇薬」はあくまで法律上の分類です。そのため、必ずしも臨床で効果・副作用の強い薬、とは限りません

 「劇薬=危ない」という安易な考え方は、劇薬でない薬は安全だと油断したり、あるいは劇薬を無意味に敬遠してしまったりする原因になります。薬の有効性・安全性を議論する上ではほとんど気にする必要はありません。

回答の根拠①:劇薬の方が弱い、普通薬の方が危険、という例はたくさんある

 「劇薬」とは、劇性が強いものとして厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて指定する医薬品と定義されています1)。つまり、「劇薬」は普通の薬に比べると危険な薬・・・のように思えます。

 1) 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律 第四十四条の二

 しかし、実際には「劇薬」と「普通薬」の似た薬を比べると、「劇薬」の方がむしろ作用は弱い・・・という事例はたくさんあります。
例えば、ステロイド外用剤の『メサデルム(一般名:デキサメタゾンプロピオン酸エステル)』はⅢ群(5ランク中の3番目)に分類される「劇薬」です。一方、『マイザー(一般名:ジフルプレナード)』はこれより1段階強めのⅡ群(5ランク中の2番目)に分類される薬ですが、「劇薬」ではありません。
メサデルムとマイザー~劇薬の強弱

 つまり、ステロイド外用剤としてより強力な『マイザー』が「普通薬」で、それより弱い『メサデルム』が「劇薬」ということになります。

 また、他にも乳幼児や妊婦でもよく使われる熱冷ましの『カロナール(一般名:アセトアミノフェン)』は、全ての医薬品の中でもかなり安全に使える薬に部類されるものですが、顆粒は「劇薬」に指定されています。
一方、アメリカでは所持が禁止されている睡眠薬『ロヒプノール(一般名:フルニトラゼパム)』や、過量摂取すると低血糖で死に至る恐れもある『グリミクロン(一般名:グリクラジド)』は「劇薬」ではありません。

 これらのことからもわかるように、劇薬かどうかと、実際に薬として危険かどうかは、あまり関係がありません。そのため「劇薬=危険」という考え方は適切ではありません。

回答の根拠②:劇薬の指定基準~薬としての用量とは別

 薬というものは、全て過量になれば毒になります。そのため、その程度の量まで摂取しても毒にならないのか・・・が「劇薬」の1つの基準になっています。たとえば以下のようなものです2)。

・経口投与で、致死量が300mg/kg以下の値を示すもの
・皮下投与で、致死量が200mg/kg以下の値を示すもの
・静脈内投与で、致死量が100mg/kg以下の値を示すもの

 2) 厚生労働省中央薬事審議会「毒薬・劇薬指定基準について」

 しかし、ここでは「薬として使う場合の用量」は考慮されていません

 つまり、同じ致死量が300mg/kgの薬であっても、薬として普段250mg/kgで使う薬であれば、ほんの少し量が増えただけでも危険です。この薬は、文字通り「劇薬」として注意深く使う必要のある薬と言えます。
ところが、薬として普段使う量が1mg/kgであれば、少しくらい量が増えたくらいでは問題ありません。この薬は、「劇薬」の基準を満たしてはいますが、薬としてはそんなにリスクの大きなものではありません。
LD50と用量
このように、薬としての危険性は”使う量”によっても大きく変わります。そのため、「劇薬」の基準を満たしているかどうかだけで、その薬のリスクを評価することはできません。

「安全域」や「有効域」が狭い、などの基準もある

 薬は大量に摂取すると中毒を起こしてしまいます。しかし、逆に少量であっても効果がありません。

 そのため、薬は中毒を起こすほど大量でなく、効果がないほど少量でない、ちょうど良い量を使う必要があります。このとき、ちょうど良い量の上限と下限の間を「安全域」や「有効域」と呼びますが、この幅が狭い薬は厳密な量の調節が必要です。
有効域と中毒域
特に、有効域が狭く簡単に中毒域に達してしまうような薬は、たとえ先述の基準を満たしていなくても、個別に「劇薬」に指定されることがあります。

薬剤師としてのアドバイス:「劇薬」かどうかは気にする必要はない

 SNSやインターネット上では、一部の医薬品やワクチンが「劇薬」であることを理由に「危険だ!」とする間違った情報が出回っています。しかし、「劇薬」は制度上の分類であって、効果や副作用の強さとはあまり関係がないと思ってもらって問題ありません。

 「劇薬=危険」と思い込むことも、「劇薬でない=安全」と思い込むことも、どちらも誤った判断を招きかねない危険な考え方です。薬にはリスクがつきものですが、具体的にどういったリスクがあるのか、なぜ薬を使った方が良いと判断されたのか、疑問に思った場合は必ず医師・薬剤師に相談するようにしてください。

ポイントのまとめ

・劇薬の方が普通薬よりも「薬として穏やか」である事例はたくさんある
・劇薬は制度上の分類であって、「薬としてのリスク」とはあまり関係がない

~注意事項~

◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

■主な活動

【書籍】
■羊土社
薬の比較と使い分け100(2017年)
OTC医薬品の比較と使い分け(2019年)
ドラッグストアで買えるあなたに合った薬の選び方を頼れる薬剤師が教えます(2022年)
■日経メディカル開発
薬剤師のための医療情報検索テクニック(2019年)
■金芳堂
医学論文の活かし方(2020年)
服薬指導がちょっとだけ上手になる本(2024年)

 

【執筆】
じほう「調剤と情報」「月刊薬事」
南山堂「薬局」、Medical Tribune
薬ゼミ、診断と治療社
ダイヤモンド・ドラッグストア
m3.com

 

【講義・講演等】
薬剤師会(兵庫県/大阪府/広島県/山口県)
大学(熊本大学/兵庫医科大学/同志社女子大学/和歌山県立医科大学)
学会(日本医療薬学会/日本薬局学会/プライマリ・ケア連合学会/日本腎臓病薬物療法学会/日本医薬品情報学会/アプライド・セラピューティクス学会)

 

 

【監修・出演等】
異世界薬局(MFコミックス)
Yahoo!ニュース動画
フジテレビ / TBSラジオ
yomiDr./朝日新聞AERA/BuzzFeed/日経新聞/日経トレンディ/大元気/女性自身/女子SPA!ほか

 

 

利益相反(COI)
特定の製薬企業との利害関係、開示すべき利益相反関係にある製薬企業は一切ありません。

■ご意見・ご要望・仕事依頼などはこちらへ

■カテゴリ選択・サイト内検索

スポンサードリンク

■おすすめ記事

  1. 『ハルナール』・『ユリーフ』・『フリバス』、同じ前立腺肥大の…
  2. 【反論】「ダマされるな!医者に出されても飲み続けてはいけない…
  3. 『キサラタン』・『タプロス』・『トラバタンズ』・『ルミガン』…
  4. 「ピボキシル基」を持つ抗菌薬で低血糖が起こるのは何故?~カル…
  5. 『アダラート』・『カルブロック』・『アテレック』、同じCa拮…
  6. 『ナウゼリン』と『プリンペラン』、同じ吐き気止めの違いは?~…
  7. 『プレドニン』と『リンデロン』、同じステロイドの飲み薬の違い…

■お勧め書籍・ブログ

recommended
recommended

■提携・協力先リンク

オンライン病気事典メドレー

banner2-r

250×63

スポンサードリンク
PAGE TOP