「DPP-4阻害薬」と「SGLT-2阻害薬」、同じ糖尿病治療薬の違いは?~心・腎保護効果と副作用
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回答:副作用の少ない「DPP-4阻害薬」、心保護・腎保護効果に優れた「SGLT-2阻害薬」
「DPP-4阻害薬」と「SGLT-2阻害薬」は、どちらも糖尿病の治療に使われる薬です。
「DPP-4阻害薬」は、少ない副作用で血糖値を下げられる薬です。
「SGLT-2阻害薬」は、血糖値を下げるだけに留まらず、心臓や腎臓を守る効果に優れた薬です。

血糖値の高さを是正するだけであれば「DPP-4阻害薬」が便利ですが、心筋梗塞や脳卒中の発症、心不全や腎臓病の進行を防ぐためには「SGLT-2阻害薬」が優先されます。
回答の根拠①:作用メカニズムの違い
「DPP-4阻害薬」と「SGLT-2阻害薬」は、どちらも血糖値を下げる作用を持つ薬ですが、その作用メカニズムは全く異なる薬です。
■「DPP-4阻害薬」:Dipeptidyl peptidase-4 inhibitor
→「インスリン」の分泌を促すGLP-1を分解してしまう「DPP-4」という酵素を阻害することで、GLP-1の作用を増強し、血糖値を下げます。
(具体的な薬の例):シタグリプチン、アログリプチン、リナグリプチン、ビルダグリプチン、テネグリプチン、トレラグリプチン、アナグリプチン、オマリグリプチン

■「SGLT-2阻害薬」:Sodium glucose cotransporter-2 inhibitor
→腎臓の近位尿細管で糖の再吸収に関わっているSGLT-2を阻害し、糖の排泄を促進することで血糖値を下げます。
(具体的な薬の例):ダパグリフロジン、カナグリフロジン、エンパグリフロジン、イプラグリフロジン、ルセオグリフロジン、トホグリフロジン

回答の根拠②:低血糖を起こしにくい「DPP-4阻害薬」
糖尿病治療で最も大きな問題となるのが、血糖値を下げ過ぎたことで起こる低血糖の症状です。低血糖は、不快な上にふらつき・転倒の恐れがあり、さらにそれ自体が心筋梗塞や脳卒中1)、認知症2)のリスクと関連するほか、その経験は糖尿病治療を挫折する大きな原因3)にもなります。このことから、糖尿病治療ではいかに低血糖を起こさずに血糖値をコントロールできるか、が1つの重要な目標になります。
その点、「DPP-4阻害薬」は単独ではほとんど低血糖を起こさない4,5)ことが知られています。そのため、高齢者のように低血糖リスクを避けたい人にとっても使いやすい薬と言えます。

1) BMJ.347:f4533,(2013) PMID:23900314
2) JAMA.301(15):1565-72,(2009) PMID:19366776
3) Diabetes Ther.4(2):175-194,(2013) PMID:23990497
4) Nutr Metab Cardiovasc Dis.20(4):224-35,(2010) PMID:19515542
5) BMJ.344:e1369,(2012) PMID:22411919
「DPP-4阻害薬」は、欧米人より日本人に向いている
アジア系の民族では「DPP-4阻害薬」の効果が現れやすいという特徴があります6)。実際、BMIの低い日本人では、「SGLT-2阻害薬」よりも「DPP-4阻害薬」の方がHbA1c値を上手にコントロールできるという傾向も報告されている7)ため、極端な肥満の少ない日本人にとって「DPP-4阻害薬」は使いやすい薬と言えます。
6) Diabetes Obes Metab.25(8):2131-2141,(2023) PMID:37046361
7) Diabetologia.56(4):696-708,(2013) PMID:23344728
「週1回」の服用で良い薬もある
「DPP-4阻害薬」には、週1回の服用で良い薬もあり、1日1回の薬からそのまま安全に切り替えることができます8)。毎日の服用が面倒な人にとっては、その負担を大きく減らせる良い選択肢になります。
※週1回の服用で良いDPP-4阻害薬
『ザファテック(一般名:トレラグリプチン)』
『マリゼブ(一般名:オマリグリプチン)』
8) Intern Med.56(19):2563-2569,(2017) PMID:28883229
回答の根拠③:心・腎保護効果も確認されている「SGLT-2阻害薬」
糖尿病で最も怖いのは、血糖値が高い状態を放置することによって全身の血管がダメージを受け、心筋梗塞や脳卒中などを発症してしまうことです。そのため糖尿病を治療する最大の目的は、ただ血糖値を下げることだけでなく、それによって心筋梗塞や脳卒中などの発症リスクを減らすことにあります。
その点、「SGLT-2阻害薬」は心筋梗塞や脳卒中の発症、腎機能の低下といったリスクを抑える、という効果が多くの研究で確認されています9,10,11,12)。
こうした心保護・腎保護の効果は「DPP-4阻害薬」ではほとんど確認されておらず13,14,15)、明確に「SGLT-2阻害薬」の方が優れている点、と言えます。

9) Lancet.393(10166):31-39,(2019) PMID:30424892
10) Diabetes Obes Metab.26(5):1837-1849,(2024) PMID:38379094
11) Lancet.400(10365):1788-1801,(2022) PMID:36351458
12) Cochrane Database Syst Rev . 2021 Oct 25;10(10):CD013650. PMID:34693515
13) Diabetes Obes Metab.23(1):75-85,(2021) PMID:32893440
14) Eur J Prev Cardiol.28(16):1840-1849,(2022) PMID:34136913
15) Lancet Diabetes Endocrinol.11(9):644-656,(2023) PMID:37499675
心不全治療でも重要な役割を果たす「SGLT-2阻害薬」
もともとは糖尿病治療薬として開発された「SLGT-2阻害薬」ですが、心不全による入院や死亡リスクを減らす効果13,16,17)も確認されており、心不全治療においては左室の駆出率を問わず最も高い推奨度で評価されている薬の1つになっています18)。

16) JAMA Cardiol.6(2):148-158,(2021) PMID:33031522
17) Lancet.400(10354):757-767,(2022) PMID:36041474
18) 日本循環器学会 「心不全診療ガイドライン(2025年改訂版)」
薬剤師としてのアドバイス:「SGLT-2阻害薬」を安全に使うためには、シックデイの対応が必須
「SGLT-2阻害薬」は心保護・腎保護効果も確認されており、糖尿病・心不全・慢性腎臓病の治療に大きな変革をもたらしている重要な薬です。しかし「DPP-4阻害薬」に比べると色々と厄介な副作用が多く、扱いには注意が必要です。
特に、脱水に伴う急性腎障害19)やケトアシドーシス20)を防ぐためには、発熱や嘔吐・下痢といった症状がある、あるいは食欲不振によって食事ができないなど、著しく体調の悪い日(シックデイ)には、「SGLT-2阻害薬」を一時的に休薬するなどのセルフマネジメントが必要です。

ただし、シックデイの対応については、個々の病状や薬の内容によって細かな注意点が異なるため、予め主治医や薬剤師としっかり方針を共有しておくようにしてください。
→日本腎臓病薬物療法学会 SGLT-2阻害薬患者指導箋「7.シックデイ」
また、「SGLT-2阻害薬」では「DPP-4阻害薬」よりも骨折12)、尿酸値の上昇、性器感染症21)といった症状を引き起こしやすいことも確認されています。「SGLT-2阻害薬」を安全に使い続けるためには、こういった面の確認も重要です。
19) Front Pharmacol.13:834743,(2022) PMID:35359843
20) Can J Diabetes.46(1):10-15.e2,(2022) PMID:34116926
21) Ann Intern Med.176(8):1067-1080,(2023) PMID:37487215
ポイントのまとめ
1. 安全に血糖値を下げたいときは、副作用の少ない「DPP-4阻害薬」が便利
2. 血糖値を下げるだけでなく、心保護・腎保護効果を得るには「SGLT-2阻害薬」が優先
3. 「SGLT-2阻害薬」を安全に使い続けるためには、シックデイ対応などのマネジメントが必要
薬のカタログスペックの比較
添付文書、インタビューフォーム、その他資料の記載内容の比較
DPP-4阻害薬 | SGLT-2阻害薬 | |
正式名称 | Dipeptidyl peptidase-4 inhibitor | Sodium glucose cotransporter-2 inhibitor |
作用メカニズム | 「インスリン」の分泌を促すGLP-1を分解してしまう「DPP-4」という酵素を阻害することで、GLP-1の作用を増強し、血糖値を下げる | 腎臓の近位尿細管で糖の再吸収に関わっているSGLT-2を阻害し、糖の排泄を促進することで血糖値を下げる |
主な薬剤 | シタグリプチン、アログリプチン、リナグリプチン、ビルダグリプチン、テネグリプチン、トレラグリプチン、アナグリプチン、オマリグリプチン | ダパグリフロジン、カナグリフロジン、エンパグリフロジン、イプラグリフロジン、ルセオグリフロジン、トホグリフロジン |
2型糖尿病治療で明確に確認されている効果 | 「血糖値を下げる」に留まる | 心筋梗塞や脳卒中の発症リスクを抑える |
心不全に対する効果 | 乏しい | 多くの報告がある |
腎保護効果 | 乏しい | 多くの報告がある |
注意が必要な副作用 | 類天疱瘡(稀) | 脱水(急性腎障害)、ケトアシドーシス、尿路/性器感染症、骨折、尿酸値の上昇など |
シックデイの対応 | 不要 | 必要 |
週1回で良い製剤 | ある | ない |
GLP-1受容体作動薬との併用 | 不可 | 可 |
最初の薬の登場年 | 2009年(シタグリプチン) | 2014年(イプラグリフロジン) |
同成分のOTC医薬品 | (販売なし) | (販売なし) |
+αの情報①:「DPP-4阻害薬」は、ステロイドなどの副作用による高血糖の対策としても便利
ステロイドを継続服用していると、副作用で血糖値が上昇してくることがあります。こうした一過性の血糖値上昇には、副作用リスクを最小限に抑えて血糖値を下げられる薬が重宝しますが、副作用が少なく、”血糖値の変動幅”も小さく抑えられる22)「DPP-4阻害薬」は非常に便利な選択肢になります23)。
22) Sci Rep.9(1):13296,(2019) PMID:31527625
23) Ann Pharmacother.52(1):86-90,(2018) PMID:28836444
+αの情報②:「DPP-4阻害薬」で警戒が必要な副作用
全般的に副作用が少なく安全に使える「DPP-4阻害薬」ですが、稀に類天疱瘡と呼ばれる皮膚症状が現れることがあります24)。放置したまま服薬を続けると入院治療が必要になってしまうケースもあるため、早期発見して対処することが大切です。
「DPP-4阻害薬」を服用していて、皮膚に痒みを伴う赤い腫れ・水ぶくれなどの症状25)が現れた際には、すぐに主治医や薬剤師に連絡するようにしてください。
23) JAMA Dermatol.156(8):891-900,(2020) PMID:32584924
24) PMDA 「医薬品適正使用のお願い No.15(2023年7月)」
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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